アマリリス
第17話
大輝との実りある話し合いの翌日、次は由美香と向き合おうと決心しつつ終業を迎える。買い物を済ませ店を出ると、そこには玲央が立っており手を上げる。
「お疲れ様です。買い物を終えて今からお帰りですか?」
「はい、有り難いことに帰って家事が待ってますけどね」
「そうですか、頑張ってらっしゃいますね」
「それが私の人生なので。ところで何か御用ですか?」
美玲の問いに玲央は小さく折り畳んだメモ用紙を差し出す。
「私の連絡先です。お時間が合うときで構いません。一度ゆっくりとお話がしたいので」
(これってどう考えてもナンパでは……)
「ごめんなさい。私には彼が居ますのでこういうのはちょっと」
「一度だけ。どうしてもお願いします」
「いや、あの、だから……」
「お願いします!」
頭を下げ強引に迫る玲央に戸惑う。店先ということもあり客はもとより他の従業員からも変に見られかねない状況だ。
(ホント強引な人。でも、大輝君と似た既視感もあって気になる点があるのも確かだ。一度限りというのなら、ここはちゃんと向き合うのも手か……)
「仕方ないですね。わかりました。じゃあ今週の土曜日。夕食をご一緒するという方向でいいですか?」
「ありがとうございます、とても光栄です」
「大袈裟です」
「いえ、そのようなことは。では、土曜日を楽しみにしておきます。ディナーの場所はこちらでセッティングしておきますので」
手を挙げると玲央は颯爽と店内に駆けて行く。大輝に対して少々悪い気持ちもあるが、今は胸の奥にあるモヤモヤを解消したい気持ちが勝っていた――――
――土曜日、玲央が誘った店は高級ホテルのディナーで、入店を躊躇わざるを得ない。個室でゆっくり出来るから大丈夫と言われるが緊張感から身体が硬くなる。個室に通されコース料理を幾つか口にすると、やっと落ち着きを取り戻せる。その様子を見て玲央は話を切り出す。
「不躾ながら、神宮さんにお聞きしたことがあるのですが、宜しいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「店の駐車場で初めて会ったとき何か感じませんでしたか?」
(やっぱり、七瀬さんも同じ気持ちを……)
「はい、どこかで会ったような、そんな気はしました。七瀬さんもですか?」
「そうです。私と神宮さんは運命の出会いなのです」
運命という単語に当然ながら大輝の顔や台詞が浮かぶ。
「運命ですか。今の彼にも同じようなことを言われましたね。七瀬さんからも言われて驚いています」
「そうですか。ちなみに彼はどんな方ですか?」
「自分の分身かと思うほど、思考、価値観、生き方、様々な点で似てる方です。優しいですし、当然ながら彼一筋です」
大輝への想いを語ることで、暗に玲央を拒否する。しかし、玲央はその意に反してニコニコする。
「そうですか。それはきっと運命でしょうね。その彼のことは大切のしないといけない」
「はい、大切にします」
(って、何で応援してるの? 私を口説くつもりは全く無し? 七瀬さんの意図が読めない)
「あの、私からも一つ聞いてもいいですか? 七瀬さん、私と過去にどこかで会ってますか?」
「ええ会ってますよ」
玲央の即答に美玲は驚いた表情になる。
「えっ、それはいつ、どこで?」
「言ってもいいんですが、神宮さんに記憶がなければ嘘と思われるだけです。聞かれた後に、この話を否定なされると私も辛いし立つ瀬がない」
「言ってください。私は知りたい。自分のことも七瀬さんのことも、そして、彼の事も。七瀬さんのさっきの口ぶりだと、きっと彼のことも知っていると思うから」
「鋭いですね。分かりました。では、話しましょう。長きに渡る私達の物語を……」