しろっぷ
 カランコロンカラン。
 喫茶店の中は良くも悪くも普通であったが、店内の落ち着きとクラシックの音が来るものに安らぎを与えるような場所だった。
 しかし、今のゆかりにとって安らげるようなことは皆無に等しく、周りの音が心臓の鼓動でかき消された。
 この店のオーナーらしき人はクラシックの音のジャマにならないよう、何も言わずに入店し、近くの席に座った。

 な、何なのこの嬉しすぎる展開は?
 もしかしてまだ夢を見ているわけ?
 でもさっきの司君の手の感触は柔らかかったし。

 まだここが理想か現実かの区別のついてないゆかりを尻目に、司はメニューを開くのであった。
「あ、あの〜」
「え?」
「そういえば名前をまだ聞いてなかったっけ」
「た、橘・・・ゆかりです」
「ゆかり・・・」
「どうかしました?」
「い、いや。あ、敬語は使わなくていいよ」
「あ、はい。じゃなかった、うん」
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