時空(とき)の彼方で
観覧車
 彼女がこの世界に来て1ヶ月が経とうとしていた。
 お盆を過ぎたと言うのに、夏の暑さは一向におさまる気配を見せなかった。
 このままじゃ、本当に秋が来るのか心配になる。
 
 今まで、ホテルに長期滞在などした事が無かったが、住めば都でホテルの1室はリラックス出来る空間になっていた。
 1週間に2回の岩清水の来訪。
 小川に至っては、舞台の無い日は毎日来てくれた。
 社交的な岩清水と、舞台を離れるともの静かな小川。
 対照的な2人だったが、小川達樹と過ごしている時の方が落ち着く彼女だった。
 元の世界で、岩清水に怒鳴られていたトラウマがあるのかもしれないが。

 トントン

「はい」
「俺だけど」

 そこに立っていたのは、小川だった。

「どうぞ」

 彼女は、すぐに彼を中に通した。
 会いたかった彼がそばにいる。
 それでも、彼が自分の事をどう思っているのかわからず、彼への思いを表に出す事が出来ない。

「はい、これ」
「何?」
「シュークリーム」
「えっ、嬉しい! わたし、シュークリーム大好き」
「良かった。ここの、凄くうまいんだ。だけど、並ばないと買えなくてね」
「えっ? それじゃ並んで買って来てくれたの?」
「まあね」
「嬉しい。でも、有名な人にこんな事させて、わたしってバチ当りな女だわ」
「気にしなくていいよ。俺も食べたかったし」
「それじゃ、一緒に食べましょう。待って、今コーヒー入れるから」
「ああ」

 彼女は、マグカップにコーヒーを入れるとテーブルに運んだ。

「どうぞ」
「ありがとう」

 彼が買って来てくれたシュークリームを頬張ると、カスタードの甘みと香りが口一杯に広がる。

「おいしい・・・」
「だろ?」

 口が思わずほころぶ。
 彼女は再びそれを口に運んだ。
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