時空(とき)の彼方で
「ところで、今日もどこかに出掛けたの?」
「近くの本屋さん」

 最近彼女は、近場ばかりだが頻繁に外に出るようになった。
 この世界の自分に出会わないように注意しながら、サングラスで目元を隠し、頭にはつばの広い帽子をかぶった。

「そう。だけど、近場ばっかりじゃ飽きるだろ? もっといろんな所に連れて行ってあげたいよ」
「大丈夫。こうして小川さんが会いに来てくれるから。そうだ、中央公園の観覧車ってまだある?」
「ああ、あるよ」
「本屋さんに、中央公園でのイベントのポスターが貼ってあったの。それ、今夜みたいなの」
「行ってみようか?」
「今から?」
「ああ」
「いいの?」
「念の為、岩清水さんの予定を聞いてみてよ。もしもう1人の君とイベント会場に行く予定があったら俺達は行かない方がいいだろ?」
「わかった」

 彼女は、岩清水にメールした。
 返事はすぐに返って来た。
 今、この世界の彼女の家にいるそうだ。
 これで、安心して公園に行ける。

「すぐ準備するから」
「ロビーで待ってるよ」
「うん」

 何を着て行こう。
 と言っても服は少ししか持っていなかった。
 元の世界に戻る時に持って行けないからだ。
 その後の整理はここにいる小川か岩清水に托すしかない。
 待って。
 それじゃその時下着も見られるの?
 そう思うと恥ずかしくなった。

「まっ、いいか。もうここへ戻って来る事はないんだし」


 急いで準備を済ませた彼女は、彼の待つロビーへ向かった。

「それじゃ、行こうか」
「うん」

 
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