時空(とき)の彼方で
 大通りから少し中に入った公園へ続く道には、夜8時を回ったとはいうものの、たくさんの人が歩いていた。
 イベントは、公園全体で行われる。
 その中でも特に観覧車前の特設ステージでは、音楽イベントが開催される事になっていて、それを目当てに若い子達が浴衣姿で集まっていた。
 9時から30分間、レーザー光線を使ったショーもあるらしい。
 公園の入口から中央に向かって露店も立ち並び、イカ焼きの甘く香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

 芝生広場を抜け、観覧車の前までやって来た。
 チケットを買って戻って来た彼と、長く伸びた列に並ぶ。

「人、多いね。乗るの止めとく?」
「ううん。乗りたい」
「わかった」

 街中にある公園だが、わりと広めで目玉はこの観覧車。
 頂上からはたくさんのビルが見える。
 昼間よりもやはり夜景がお勧めだった。
 
「観覧車、好きなの?」
「ええ小さな頃から。小川さんは?」
「高いのが、ちょっと苦手かも」
「高所恐怖症ですか?」
「まあね。だけど、君と2人で乗るのは楽しみだ。それに夜だから、あまり高さも気になら無いだろうし」
「一番上に行ったら揺らしちゃおうかなー」
「おいおい」
「冗談ですってば」

 横にいた彼から軽く肘で突かれる。
 そして、彼の指が、彼女の細くて長い指に絡まり優しく曲げられた。

 えっ? と思って彼を見上げたが、その瞳は観覧車に向けられている。
 彼女もそのまま、観覧車に目を向けた。

 2人の順番が来たのは、それから20分ほど待った頃だった。

「はぁー。やっと座れた」

 ゆっくり回っているように見えていた箱は、実際に乗ってみると思ったよりもスピードがある。
 それでも一周回って降りるまでには、10分ほどかかる。
 その間、2人きりだ。
 そう意識した途端、彼女の鼓動は速くなる。

 これは恋だ。
 彼女は小川達樹の事が好きになっていた。

「あれっ? おとなしいじゃん」
「えっ?」
「あー、もしかして本当は君も高所恐怖症なんだろ?」
「ち、違いますよ」
< 19 / 36 >

この作品をシェア

pagetop