時空(とき)の彼方で
「座れる?」
「はい」

 彼女は、羽織っていた長袖のパーカーを脱ぐと、パタパタと両手で顔を扇いだ。

「アイスコーヒーでいいかな?」
「はい、冷たいものだったら何でも」
 
 彼は、近くにいた店員を呼ぶと、飲み物と軽食を注文した。

「今日の暑さは異常だよね。軽い熱中症だったんじゃないかな」
「ごめんなさい、ちょっと電話してもいいですか?」
「どうぞ」

 彼女はバッグから携帯を取り出すと、職場に電話を掛けた。

「あれっ?」

 一旦電話を切った彼女は、もう一度ゆっくりと番号を押す。

「通じない・・・」
「えっ?」
「おかしいわ。電池が切れたってことでもないのに、なぜ呼び出し音もしないんだろう」

 彼女は、3度目の電話を試みたが、何度掛けても結果は同じだった。

「おまたせしました」

 テーブルに、アイスコーヒーとサンドイッチの盛り合わせが置かれた。

「電話もいいけど、まず飲まない?」
「あっ、ありがとうございます」

 彼女は、乾き切った喉に、アイスコーヒーを流し込んだ。

「はー、生き返りました」
「良かったら、これも食べて」
「はい、頂きます」

 アイスコーヒーを半分以上飲み干したところで、彼女はサンドイッチに手を伸ばし口に運んだ。

「おいしい。実は遅く起きたので、コーヒーしか口にしてなかったんです」
「そんな事するから倒れそうになったんだよ」
「そうですね」
「俺、小川達樹」
「わたし、成瀬理沙と言います。助けて頂いて本当にありがとうございました」
「それにしても、今どきガラ系なんて、レトロだね」
「えっ? この携帯ですか? 確かに今はスマホ時代ですけど、わたしはあえてこの最新のガラ系を買いました」
「最新っていつ? 10年前?」
「失礼ですね。2週間前に買ったばかりです」
「えっ?」
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