時空(とき)の彼方で
「無理しなくていいよ。こっちにおいで」

 そう言われて、本当は怖くは無かったけれど、彼に近づきたい一心で前の席から横の席に移動した。

「やっぱりね」
「バレました? だけど、片側だけに座っちゃったら、傾いて余計に怖そう」
「大丈夫。こうして手をつないでいたら怖くないさ」

 彼女は、心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思った。
 気づかれないように深呼吸をする。

 やがて2人を乗せた観覧車は、前と後ろの箱が下に行き、一番高い場所に到達した。
 そしてその時、繋がれていた彼の手がほどけ、そのまま彼女の肩に戻されたかと思うと、すっと近づいて来た彼の顔で周りの景色が何も見えなくなった。
 やがて唇に伝わる温かさ。
 
 彼女は、そっと目を閉じた。

 どのくらいそうしていただろう。
 目を開けると、彼がこちらを見ていた。

 何も言わないけれど、優しい瞳。
 優しい微笑み。

 2人はそのまま身を寄せ合い地上に降りた。

「綺麗な夜景だったね」
「うん」
「観覧車乗ったの、何年ぶりだろ。良かった。理沙と乗れて」
「わたしも良かった。あなたと乗れて」
「芝生広場にでも行こうか」
「うん」

 そこに肩を並べて座っていると、やがてレーザー光線ショーが始まった。
 本当はここで花火といきたいところだが、公園の周りは住宅地だ。公園を取り囲むようにマンションが立ち並び、とても花火を上げられる場所ではない。
 その代わりに登場したのがレーザー光線ショー。
 これも、音こそマネ出来ないが、なかなかの見ごたえである。
 イベントは3年前からあっていたが、毎年この時間の観覧者が一番多かった。

「綺麗」
「そうだね」

 彼女は、この公園の観覧車には乗った事があるが、イベントを見るのは初めてだった。
 おまけに隣りには好きな人がいる。
 ここへ来た時は不安だったが、こんなにいい思い出が作られるのなら、来て良かったと思えた。

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