時空(とき)の彼方で
募る思い
 その後も、彼は毎晩のようにホテルに来てくれた。
 ほんの10分間、顔を見に来てくれただけの時もあったし、ワインを飲みながらビデオを観る事もあった。
 それでもあのキスはやっぱり夢だったのかもしれないと思うくらい、彼女の期待とは裏腹に何の進展も無かった。
 彼と話をするのは楽しい。
 だけど、彼に触れたい。
 もう一度キスして欲しい。
 そして、それ以上の事も。
 そんな思いが今にもあふれ出しそうだった。

 わたしは彼を愛している。

 彼女は自分の気持ちに気が付いた。
 それでも彼の気持ちを確かめるのは怖かったし、いつか訪れるであろう彼との別れ。
 好きになればなるほど別れが辛くなる。
 元の世界に彼がいたとしても、それはここにいる彼ではないのだ。
 
 わたしは彼を愛している。
 ここにいる小川達樹さんを愛している。

 切なかった。
 この思いを心に秘めたまま立ち去らなくてはいけないのか。
 たとえ辛さが増そうとも、やはりこの気持ちを伝えるべきではないだろうか。


 そんなある日。

 いつものように部屋にやって来た彼だったが、何となく元気が無かった。

「どうかしたの? 元気がないみたいだけど」
「理沙、まだ君に言ってない事がある」
「えっ?」

 彼女はドキリとした。
 もしかしたら告白してくれるのかもしれない。
 ところが、彼の口から出た言葉は、想像していたものとは違っていた。

「もうすぐ帰る日が来ると思う」
「えっ?」
「いろんな説があるけど、向こうに戻っても、時間的には理沙がここに来た日の前後に戻れるはずだ。だから、捜索願いが出されているとか、住んでた家が無くなっているとかそんな事にはなっていないはずだ」
「良かった。それじゃ何事も無かったようにいつもの生活に戻れるというわけですね。あ、でも1日でもズレてたら、わっ、どうしよう。店長に怒鳴られる・・・」

 元の世界の店長の顔が浮かぶ。
 無断欠勤などもってのほか。
 そんな事をしようものなら、即刻クビだ。
 だけど、違う世界に行ってたなどという言い訳は通用しない。
 一体どうしたら・・・


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