時空(とき)の彼方で
日常
 ピピピピッ ピピピピッ
 
 目覚まし時計の音で目が覚める。

「もう時間・・・?」

 起きたくない。
 仕事にも行きたくない。

 今週遅番の彼女は、13:00に出勤して20:00まで勤務する事になっている。

「行きたくない。どうして店長、わたしばっかり怒るのよ。イジメよイジメ。早くわたしを辞めさせたいんだわ」

 入社以来、何かにつけ、店長から怒られ続けて来た彼女。
 何とか一年我慢して耐えて来たけれど、それももう限界。
 バッグには前もって書いておいた辞表が入っている。
 あとは、これをどのタイミングで出すかが問題だった。
 
 あまり事を荒げたくない。
 辞めるとしても、円満に辞めたいのだ。

「あーむかつく」

 それにしても、店長の顔を思い出しただけで怒りがこみ上げて来る。
 性分には合わないけれど、やはりここはパン! と辞表を叩き付けて辞めてやろうか。
 それが出来たら苦労はしないんだけど・・・と、落ち込む彼女だった。

 それでもいつの間にか準備が終わってしまった。
 嫌だ嫌だと言いつつも、人一倍責任感の強い彼女には、無断欠勤だのズル休みだのをする勇気はない。

「行って来ます」

 誰もいない部屋にさよならを言うと、彼女は外に出た。

「暑い!!」

 外は灼熱地獄のようだった。
 完全防備に身を包んだ彼女は、水の入ったペットボトルのふたを開けると、一口飲んで出発した。
 バス停まで十五分。
 その間が一番辛い。

 バス停に着くと、遅れて到着した1本前のバスにすぐに乗れた。
 ちょっとした幸せ。
 今の彼女は、そういうちょっとした良い事の欠片を拾い集めて、何とか店長のしごきに耐えている状態だった。

 彼女は空いてた一番後ろの席に座ると、バッグから求人雑誌を取り出し目を通した。
 事務は性に合わないので外す。
 力仕事も無理だ。
  
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