時空(とき)の彼方で
 そうこう悩んでいる間に、目的地に到着。
 人の流れに沿いながら、すぐそばのビルに吸い込まれた。

「おはようございます」
「おう、来たか。早速だが、今日は小林が急用で休んでいる。いつも以上に頑張れよ」
「はい」
「俺ちょっと休憩して来るから、店頼むな」
「えっ? わたし一人になっちゃうんですか?」
「ああ。お前なら出来るだろ?」
「えっ?」
「こんな日もあろうかと、厳しく指導して来たんだ。今のお前だったら、安心して店を任せられるよ。それじゃ、15分で戻る」
「わかりました」

 彼女は驚いた。
 あの店長から安心して任せられるとかいう言葉を貰えるとは。
 
「すみません。これ下さい」
「あ、はい。ありがとうございます」

 彼女は急いでレジに行くと、手早く仕事をした。

「ありがとうございました」
 
 入口付近までお見送りを済ませた彼女は、ワゴンの中で乱れた洋服を綺麗にたたむ。
 それから店内の整理も済ませると、レジに戻った。

 商業施設の2階部分にある小さなショップには、30代、40代をターゲットにした婦人服が並べられている。
 他の店を回った主婦層で、昼間を中心に賑わっている。
 夜は、会社帰りのOLの姿があった。
 店長は、もう少し幅広い年齢層の女性に支持される店に変えたいらしいが、この店舗の床面積では全部をまかなうには無理がある。
 本社に、もっと広い店に移転したいと掛け合っているらしいが、それが実現される見通しはまだ立っていない。


 約束通り、15分ほどして店長が戻って来た。

「どう? 問題ない?」
「はい」
「それは良かった」
「店長、小林さんのお休みは今日だけですか?」
「そう聞いてるが、どうして?」
「明日は店長、午後から本社での会議ですよね? もし小林さんがお休みなら、わたし一人っきりになるのかなって」
「その時は誰かに入ってもらうよ。心配するな」
「わかりました。あっ、いらっしゃいませ」

 彼女は、お客さんの姿が目に入ると、反射的に笑顔で駆け出した。
 その姿を優しい笑みで見つめる店長。
 28歳という若さでここの店長を任せられている岩清水真人。
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