時空(とき)の彼方で
劇場
「そうだ。成瀬、明日の夜何か予定あるか?」
「いえ、何も」
「舞台のチケットもらったんだけど、俺明日の夜は先約があっていけないんだ。良かったら観て来ないか?」
「行きます! わたし舞台大好きなんです。だけどチケット代が高くて、頻繁には行けなくて」
「そうか。だったらはい、これ」
受け取ったチケットには、彼女がまだ座った事のない1階中央、しかも前から五列目の座席番号が書いてあった。
「こんなに良い席、本当にいいんですか?」
半分涙目になるくらい嬉しそうにしている彼女。
半ば呆れ顔の店長は、その代わり、今度飯に付き合えと言い残して店を閉め始めた。
2人で店を出る。
いつも仕事終わりに感じる疲れも残っていない。
彼女は軽い足取りでバス停に向かうと、いつものバスに乗り込んだ。
今日は何て良い日なんだろう。
こんなに良い日は長く続かない・・・という一抹の不安はあるが、劇場のチケットを貰えた事はその不安を一瞬で吹っ飛ばした。
翌日、貰ったチケットを握り締めて劇場に向かった彼女。
出演者を確認してみたが、若手の役者が多くて、知っている人はいなかった。
それでも、内容がラブストーリーという事でわくわくしていた。
彼女は座席に行くと、本当にここでいいのか何度もチケットと椅子の背もたれを目で往復した。
間違いない。
ゆっくりとシートに座る。
ちょっと落ちつかない。
開演20分前にはかなりの席が埋まっていた。
振り向くと、2階席にも大勢の観客の姿があった。
自分が知らないだけで、今日の出演者にはファンがいっぱいいるんだと知らされ、益々始まるのが待ち遠しくなった。
舞台の幕が上がる。
彼女はその内容にぐんぐん引き込まれていく。
貧しい娘が、金持ちの男と出会い繰り広げられていくラブストーリーだった。
定番といえばそれだけだが、主役の若い男の演技力に心が揺れた。
「素敵・・・」
そして、舞台が終わる頃には、すっかり彼のファンになっていた。
彼女は公演パンフレットを買うと、主役の彼の名前を確認した。
「いえ、何も」
「舞台のチケットもらったんだけど、俺明日の夜は先約があっていけないんだ。良かったら観て来ないか?」
「行きます! わたし舞台大好きなんです。だけどチケット代が高くて、頻繁には行けなくて」
「そうか。だったらはい、これ」
受け取ったチケットには、彼女がまだ座った事のない1階中央、しかも前から五列目の座席番号が書いてあった。
「こんなに良い席、本当にいいんですか?」
半分涙目になるくらい嬉しそうにしている彼女。
半ば呆れ顔の店長は、その代わり、今度飯に付き合えと言い残して店を閉め始めた。
2人で店を出る。
いつも仕事終わりに感じる疲れも残っていない。
彼女は軽い足取りでバス停に向かうと、いつものバスに乗り込んだ。
今日は何て良い日なんだろう。
こんなに良い日は長く続かない・・・という一抹の不安はあるが、劇場のチケットを貰えた事はその不安を一瞬で吹っ飛ばした。
翌日、貰ったチケットを握り締めて劇場に向かった彼女。
出演者を確認してみたが、若手の役者が多くて、知っている人はいなかった。
それでも、内容がラブストーリーという事でわくわくしていた。
彼女は座席に行くと、本当にここでいいのか何度もチケットと椅子の背もたれを目で往復した。
間違いない。
ゆっくりとシートに座る。
ちょっと落ちつかない。
開演20分前にはかなりの席が埋まっていた。
振り向くと、2階席にも大勢の観客の姿があった。
自分が知らないだけで、今日の出演者にはファンがいっぱいいるんだと知らされ、益々始まるのが待ち遠しくなった。
舞台の幕が上がる。
彼女はその内容にぐんぐん引き込まれていく。
貧しい娘が、金持ちの男と出会い繰り広げられていくラブストーリーだった。
定番といえばそれだけだが、主役の若い男の演技力に心が揺れた。
「素敵・・・」
そして、舞台が終わる頃には、すっかり彼のファンになっていた。
彼女は公演パンフレットを買うと、主役の彼の名前を確認した。