時空(とき)の彼方で
「それ、騙されてない?」
「どういう事ですか?」
「今どき、どこの携帯ショップにもガラ系は置いてないよ。ってか、数年前から生産もされてないと思うけど」
「嘘でしょ? ちゃんと正式なショップで買いましたよ」
「変だな・・・」

 彼女は、少しむっとしながらも、さっきの事を思い出す。

「だけど、呼び出し音がしないのってどういう事かしら」
「やっぱりそれ、もう使えないんだよ」
「でも、昨日までちゃんと使えてたのに」
「だったら今、俺のスマホに掛けてみなよ。はい、番号はこれ」

 さし出されたスマホの画面に映し出された番号を、ひとつひとつ間違えないように指で押す。

「呼び出してる?」

 彼女は、受話器を耳に当てたまま、首を横に振った。

「ほらね。掛かってもこないでしょ」
「壊れたのかしら」
「・・・変な事聞くけど、今日は何月何日?」
「8月23日でしょ」
「何年の?」
「何年のって、2016年に決まってるじゃないですか」
「やっぱり・・・」

 怪訝な表情を浮かべる彼に、彼女は不安を覚えた。

「どういう意味ですか?」
「見て」

 彼は、スマホの待ち受け画面を見せた。

「2026年8月23日。えっ? 26年?」
「そう。ここは、君がいた世界の10年後の世界だ」
「10年後って、えっ? どういう事?」

 彼女は訳がわからなかった。
 家を出て、まだ30分も経っていない。
 それなのに、10年後ってどういう事?

「実は、前にもいたんだよね、君みたいな子」
「何? これって新手のナンパ?」
「違うよ。よし、それじゃ今から確かめに行こう」
「確かめにって、どこに?」
「君の家」

 ますます怪しい。
< 3 / 36 >

この作品をシェア

pagetop