時空(とき)の彼方で
「こちらこそ、観に来てくれてありがとう。それじゃ」

 彼はタクシーに乗り込む前に一度後ろを振り返ると、ファンに向かって手を上げた。
 最後に大歓声。
 それから彼は、夜の街に消えて行った。

「どこだろう。どこで会ったんだろう」

 彼女は家に帰ってからも、ずっと彼の事が頭から離れなかった。

 彼の事を思い出せないまま月日だけが過ぎていく。
 彼の舞台があると、必ず観に行くようになった。
 その度に、どこかで会ったという思いが強くなる。
 と同時に、彼への想いも募る。

 彼女には、ファン以上の想いが湧いていた。

 彼の事が好きだ。
 片思いでもかまわない。
 こうしてずっと彼の傍にいたい。

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