時空(とき)の彼方で
7年後
「理沙、俺来月から本社勤務になった」
「えっ? それじゃここには新しい店長が?」
「いや。とりあえずお前が店長代理だ」
「わたしが??」

 これまで一緒に働いて来た岩清水がいなくなる。
 そればかりか彼女が店長代理?
 そんなのありえない。
 ここで働き出して7年以上経ったとはいえ、店長がいたからやってこれただけだ。
 ここ数年、後輩社員の指導も任されているとはいえ、いつも相談出来る店長がいたからやってこれただけだ。
 一人では何も出来ない。

 一気に不安に包まれる。

「そんな顔するなって。本社に行ったからって、もうお前達の面倒はみないって事じゃないんだから。わからない事があったらいつでも電話してくれたらいいし、電話で解決出来ない時はすぐに飛んで来る。本社からここまで何分で来れると思う? 車で15分だぞ」

「それはそうですけど、やっぱりわたしには店長の代わりは出来ません」
「これはまだ内緒だが、今年一杯でこの店は閉める」
「えっ? それじゃ、わたし失業しちゃうんですか?」

 それは死活問題だ。
 一人暮らしの彼女は、働いて収入を得ないと生活していけない。

「そう早まるなって。ここは閉めるが、新たに仲通店を作る。そうなったらお前はそこの店長だ。ここのスタッフもみんなそちらに移動してもらう」
「代理じゃなくて店長?」
「そうだ」
「無理無理無理。絶対に無理です!」

 小心者の彼女に店長など務まるわけがない。
 やっぱり死活問題。
 店長なんか任されても、すぐにクビになってしまうのがオチだ。

「何沈んでいるんだよ。お前なら大丈夫さ。俺のしごきにも耐えられたんだから」
「でもわたし・・・」
「それで・・・だ。俺達近くにいるとはいえ、今までのように毎日顔を合わせるってわけにもいかなくなる。理沙、俺と付き合ってくれないか?」
「へっ?」

 思わず口から空気が漏れたような返事をしてしまった彼女。

「俺、お前と離れる事になって気が付いた。好きなんだ。俺の彼女になってくれないか?」
「・・・」

 彼女は、少し間を置いて話し出した。

「店長の事、尊敬しています。いい人だと思っています。だけど、わたし好きな人がいるんです」
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