時空(とき)の彼方で
さらに3年後
 仲通店の店長になって2年が過ぎた。
 最初の頃は自分には絶対荷が重いと思っていた彼女も、本社勤務になった岩清水や、同じ店で働く仲間達の助けを借りて、何とか店長と呼ばれても恥ずかしくない女性になっていた。
 仲通店の売り上げを伸ばすべく、休み返上で頑張る彼女。
 小川達樹への思いはまだ続いている。
 彼の方も、最近ではテレビ出演も増え、知名度も上がっていた。
 彼女から遠い存在になってはいたが、公演の度に姿を見せていると名前も覚えてもらい、時間のある時には少しだけ話をする機会も貰えた。

「店長、明日は俺が頑張りますから、店長は休んで下さい」

 前の店からのスタッフで、彼女より5歳年下の灘浩次は、次期店長候補の優秀な社員だった。
 年下ではあるが、それを感じさせない行動力で、時には彼女を引っ張ってくれる頼もしい社員で、一目置いていた。

「ありがとう。でも大丈夫だから」
「ダメです。休んで下さい」
「・・・わかった。どうしてだろ? 浩次君に言われると、逆らえないんだよね」
「それは俺が優秀だからです」
「それ、自分で言う?」
「まあそれは冗談ですが、とにかく心配しないでゆっくり休んで下さい」
「ありがとう」

 翌日、昼近くまで眠った彼女は、軽い昼食を取り、街に出掛けた。
 久しぶりに化粧品でも買おうかという気になったのだ。
 客商売をしているので、身なりにはある程度気をつかっている。
 化粧も、ナチュラルだけどきちんとしている方だった。
 それでも最近肌が衰えてきたのか、いつものスキンケアでは乾燥を防げなくなってきた。
 行きつけの店で、今の自分に合った基礎化粧品と無くなりかけていたファンデーションを購入する。
 それからコーヒーでも飲もうとカフェに移動した。

 平日の午後2時。
 彼女は窓際の席に座ると、コーヒーを注文した。
 すぐ横のテーブルには、女子大学生だと思われる若い女の子が4人座って、話に夢中になっていた。

「ねえ、知ってる? 今晩中央公園でイベントがあるらしいよ」

 その言葉が耳に飛び込んで来た。

 中央公園か・・・。
 もう何年も行ってない。
 子供の頃は両親に連れられて、あの大きな観覧車に乗りに来たものだ。

 観覧車?

 そこから先は、もう女の子達の声は耳に入って来なかった。

 中央公園の観覧車。
 肩を寄せられキス。
 そこにいたのは彼。

 
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