時空(とき)の彼方で
「とっても大切な話なんです」
「達樹さんが来てから、楽屋の外で話して下さい」

 そう言うと、彼女はドアを閉めた。

 困った。

 人気の多い場所では話せない。
 一体どうしたものか。

 そうこうしているうちに、ファンの子が集まり出した。
 そして、廊下の突き当たりから彼がやって来るのが見えた。

 彼はいつものようにファンに挨拶しながらやって来る。

「あれっ? 理沙ちゃん。今日はいつもの場所じゃないんだね」
「達樹さん。大切なお話しがあります」
「大切な話?」

 周囲の女性が怪訝な顔をする。
 それに気づいた彼は、親戚の子なんだと言い訳をして彼女を楽屋に通した。

「あ、あなた。ファンの子は楽屋には入れないって言ったじゃない」

 さっき彼女を閉め出した女が怒っている。

「奈菜、彼女はいいんだ。悪いけどちょっと外に出てくれる?」
「えっ? でも・・・」
「頼む」

 女はキツい眼差し向けると、仕方なく外に出て行った。

「ちょっと理沙ちゃん。いつも観に来てくれている事には感謝してるよ。だけど、楽屋に入っちゃいけないってルール知ってるよね? まあさっきは仕方無く入れたけど、今後こういう事があったら困るんだ」
「わたし思い出したの」
「何を?」
「わたし達、別の世界で出会ってた。そして愛し合ってた」
「別の世界って何? まさか前世とか言わないよね?」
「良かった。思い出せて良かった」

 彼女は溢れる涙を止める事が出来なかった。

「あの、悪いんだけど僕には何の事だかわからない。熱狂的なファンの子の妄想なら迷惑なんだけど」

 明らかに彼が引いているのがわかる。
 これ以上の説明は事をややこしくしてしまいそうだ。
 そう思った彼女は、別の日にもう一度話を聞いて欲しいと頼んだ。

「お願いします。それでも不愉快だとおっしゃるなら、もう二度とあなたの前には現れません」
「・・・わかった」
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