歩道橋で会おうね。
「いつになるか、ですか…。
それはわたくしたち医者にもわかりませんね。
大体、何故記憶を失ったかもわかりませんから。
…わたくしの考えですが、ハルキくんの失った記憶は、奥深くに眠っているわけですから、それを起こすことが出来れば、きっと記憶は戻るでしょうね」
「そうですか…」
「あまり焦らないことが重要だと思いますよ。
お姉さんやご友人だけでなく、本人もショックを受けますから。
やはり焦らず見守り、記憶が戻る手助けをしてあげることが重要ですね」
「わかりました…。
怪我はいつぐらいに治りますか?」
「それはもう少しで治るでしょうね。
そんなに大きな怪我ではありませんから」
「ハルキくん」とオジサンに呼ばれ、一応振り向く。
一応なのは、やはり自分が誰だかわからないからだ。
「焦らないで、ゆっくり思い出していければいいんだよ。
もしかしたら、ハルキくんにとって、思い出したくない記憶かもしれないからね。
記憶を失っても、過去の出来事だからと振り返らず、思い出さずに一生を終える人もいるだろうからね」
笑顔で言ったオジサンは、看護師さんと一緒に「お大事に」と出て行った。
…確かに過去の出来事だ。
前だけ見て、生きて行ける。
でもそれが。
もし間違いならば。
思い出した方が良い記憶だとしたら。
僕は、思いだそう。
いつになるかわからないけど。
どんな記憶でも、思い出してみよう。