妖華にケモノ
前世の記憶

葉蓮


「よお葉月」

突然名前を呼ばれ、ひぐらしの奥を見る。
すると、着物の乱れた男が一人。
その顔は間違えなく高尾だった。

「あれ?高尾、客は?」

「怒って帰っていった」

「はぁ。またか、商売にならんでしょう」

嗚呼、やはりここは吉原。一夜限りの戯れを求めて男女が偽りの契を結ぶ場所。
それに変わりはないのだ。

「と言いますか、二人共きちんと着てください!」

「あっ」

二人は顔を見合わせると素早く着物を正した。
高尾は一本前に出ると、私の前に座り込んだ。
それに続き、ひぐらしも腰をおろす。

「で、御二人さんはどういうご関係で?」

「夫婦....」


ーースパコーン

冗談のつもりで言ったのだろうか。高尾の頭にひぐらしが帯に挟んでいた扇子を投げつける。
そして高尾の後頭部にめり込んだ扇子がポロリと畳の上におちた。

「分かっているくせして、わしに一発いれたかっただけじゃろ!!早く行け!しっしっ!!」

「ええ。まぁ。では高尾、くれぐれも余計なことはしないように」

ひぐらしはそう言い、変えの着物の帯を忘れたのだろう。簞笥を開け代わりの帯を持つとこちらに頭を下げ、静かにとをしめた。


高尾と二人きりになると、沈黙がしばらく続いた。

その間私は深く考える。

目の前に居る美しい容姿をしたヒトは人間ではない。人間のカタチをしたものの怪だと思うと一層気を抜けなくなった。

「そんなに警戒するな。さっきは。その...少しからかい過ぎた。大門のことも」

「世間に、この遊郭には鬼がいると伝えたら貴方はどうなるのでしょうね」







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