鳥籠の底は朱い道
双方とも負けの未来など見ていない。
だが恐らく勝利の結果は全く別の光景だろう。
狼だけではなく圧倒的な勝利の前では誰しもが“無傷”の勝利を描くだろう。
だが朱道は違う“満身創痍”の勝利を描いている。血だらけの勝利こそが自分の結末。その血は自分のものだけではないだろうが……。

襲ってくる狼を双の手で殴り飛ばし、対の脚で蹴り飛ばしたのは四匹の狼。だが、背中や肩、一瞬の隙で出来た両腕両足に噛みつくのは残った狼達。
「おらおらぁ、その程度かよ! もっとしっかり噛めよ」
噛まれたこと対し苦痛や戸惑いはなく、全身から自らの血をまき散らしながら体を振りまわし、狼の群れを引きはがす。が、無理矢理引き離したことにより、余計に傷を増やすが朱道に苦痛の色はない。
それでも一度に振り放すことが出来たのは半分程度で、二度三度全身を振り、噛みついてきた狼達を全部引き放すが、その間にも狼は飛び込んできて結局は元に戻る。
――だが、襲ってくる狼達と朱道が繰り出す攻撃では速度が決定的に違う。
まだまだ狼達の勢いはあるが数は減っている。朱道は勢いこそあるが全身から鮮血を噴き出している。
朱道が傷の痛みに負け、苦痛を見せれば恐らく勝利は狼の物だろう。だが、朱道に見えるのは苦痛とはほど遠い笑み。
不気味なまでの笑みは、自分が傷を負う毎に快感を得るマゾ的な部分を見せる。
だが、本当に快感を得ているのは狼の首をへし折り、頭を叩き割り、そして血を浴びるその瞬間であり、圧倒的なサディスティックな部分であった。
しかし、朱道にも限界はある。ましてや朱雀の能力に目覚めていないのだから、守護四神ではなくただの人間に近い分類に入る。
大方半分の狼が負傷し、そしてその二割程度が無残な形で死体と化している。
だが、朱道も限界に近いぐらい鮮血を流すが、そこでやっと朱道と狼達の睨み合いに変わっていた。
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