鳥籠の底は朱い道

主張のない血

いつもと変わらない部屋の光景……。
殺し合う者同士のぶつかり合い。
しかし、すでに勝負は終盤。一人が見下し、もう一人が見下されている。
強い瞳で見下す二つの黒真珠。はっきりとすでに決着はついていた……が、見下されている者は認めない。
自分の敗退を認めず、見下されながらも見上げるのはもう一つの黒真珠の瞳。
「さぁ負けを認めなさい」
「ウルセェ、オレは負けてない」
そう、見下されているのは朱道で、見下しているのは黒眼の“女”だった。

何故こんな状況になっているのか、それは狼の群れと戦った三日後の出来事。
突如に父である黒馬が朱道の殺し相手を連れて来たのである。
しかも言われるままに紹介されたのが黒眼で長めの黒髪を持つ女だった。この時は正直、朱道は笑っていた。
何故なら今まで朱道は“女”という者と戦ったことがなく、それは黒馬自身が女性は弱い生き物だと決めつけていたから……本当の強さには男女の差などないというのに。
つまりは黒馬が今まで戦いの相手として女を連れてきたことがなく、今日が初めてということになる。
しかも話を聞けば黒眼の女こと椿（つばき）は以前に黒馬が言った朱道がまだ勝てない相手だと言う。
そこで朱道は心の中ではなく声を吐き出し、黒馬の前で、椿の前で高らかに笑い始めた。
それはもちろん、椿を馬鹿にして。
だが、黒馬も椿も何も言い返さず、居間の中では虚しく朱道の笑い声が響く。
不快に感じたのはもちろん朱道の方であり、そんなに自信があるなら今すぐにでも始めろと挑発をして、いつもの殺し合いの部屋で椿と対立したのである。