鳥籠の底は朱い道
「――テメェ、ぶっ殺す! 絶対に殺してやる。一滴も残さずテメェの血をブチ撒かせてやるよ」
朱道の殺気は完全に目の前にいる椿を餌と認識した。
しかも今までとは違い、餌は餌でも絶対に完食するという殺伐とした牙がある。
「そう、本気で来てくれないとこっちが困る。殺す気で来なさい。じゃないと――」
「――んなことどうでもいいんだよ!」
椿の言葉に構わず朱道は獣の如き突進で、二メートルほどの間合いを二蹴りで零にする。
――が、すでにその場所に椿の姿はない。

な、に?
どこに消えた?
どうやって消えた?

煙のように消えた椿に対し、朱道は驚きで動きが止まってしまった。
考えれば一度目の時だって朱道は椿の動きを捉えられていない。つまり朱道の反射神経よりも椿は早いということになる。
何らかの小細工で朱道を惑わしているなら朱道に救いはあるが、小細工は一切なく、ただ単純に朱道が遅く、椿が早いというだけなのが事実。
それは何よりも朱道が分かっている。そして、もう一つ確信する。
こいつは今までとは違う。オレと同じように神素の持ち主であり、しかも神素を使ってやがる。
そう、守護四神でありながら神素を使えない朱道だが、椿はエデン出身の人外の存在であり、しかも神素を完璧に使いこなしている。
言い訳になるが、だから朱道は椿の動きを捕えられない。
神素は人の限界以上の肉体補正による強化を行える。ただ特殊な能力だけが神素ではない。そのことを朱道は知らなかったが、今黙認した。
こいつは一番危険な相手か……なるほど、確かに親父が強いというのは分かる。だが……。
「神素を使ってその程度か? はん、だったらオレが神素を解放したら残念な結果になるな」
「そう、解放出来たらの話。実際は出来ないことは知ってる」
椿は知っている、朱道が神素を解放出来ないということを。
別に朱道はハッタリのつもりで言った訳ではなく、ただ単純にもし自分が神素を解放出来たのなら、互角以上に自分が有利な展開になると確信している。
だけど、それも甘い考え。まだ朱道は分かっていないし理解していない。椿がまだ強化の神素しか行っておらず“能力”の神素を発動させていないということを。
しかも強化の神素ですら半分の解放もしていない。
< 18 / 69 >

この作品をシェア

pagetop