鳥籠の底は朱い道
朱道はどこまで分かっているのか……この段階ではまだ力量を測ることが出来ない。
今日が神素を扱う相手との初戦なのだから。これから記憶に刻み、もっと神素について知っていく。
手加減なんかしてたらこっちが殺られる。だったら遠慮なく行く!
朱道の全身が弾けた。
タンッという軽いステップで椿の死角を取り、不意打ちの右腕が撃ち放たれる。
会話の途中だろうが、いきなりだろうが関係ない。この場所に立っている以上“卑怯”という言葉は無力と化す。
勝つためなら、生きるためならどんなことでもする。それが結果として自分を強くするから。だから朱道は手段を選ばない。
――だが朱道の不意打ちは、虚しくも椿の片手に楽に弾かれる。
「甘いですね。その程度の動きなら目を瞑ってでも防げます」
「だったら避けてみろよ!」
振り向くことなく余裕で防いだ椿だが、その余裕は間違いであり、朱道は防がれるのを承知で殴りかかっていたのだ。
故に見事なコンビネーションで鉈の如き図太く鋭い蹴りが繰り出される。
――が、しかし、これも余裕で軽いバックステップをして避けた。
「狙いは良いけど、やはり遅い……?」
瞬時に椿は口を塞いだ。
それは朱道の気配が全く消えたから。
朱道は薄暗い部屋に溶け込み、さっきまで漂わせていた殺気すらも蒸発させた。
だが、自分を狙っているのは明らかと、椿は野生の獣に狙われている気分だろう。
見失うはずがないと思っていた椿だが、余裕すぎた故に油断し、そして朱道という存在を薄めてしまった。だが、それだけではない。椿は確かに全力を出していないが、朱道もまた全力は出していなかった。
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