鳥籠の底は朱い道
朱道はいくつもの獣相手の戦いと、深夜の森で行動したために勝手にに身に付けた戦法。
しかもそれを実戦で試みたのは初めてのこと。
――だが初めてとは思えないほど完璧に気配を消した。しかし見渡されればどこにいるかなど明白。だから一瞬の内に朱道は椿に攻撃を仕掛ける。
背後なのかもしれないし、もしくは左右という横。後ろばかり気にしていて下や上からもあり得るし、ひょっとすれば正面に現れる可能性もある。
相手の姿も見えず気配を探れないということはある種の恐怖だろうが、椿の顔にはさっきの余裕こそないものの、恐怖を感じている様はない。
見えてねぇな。オレをなめ過ぎたんだよ。さぁ言った通り殴り殺しにしてやる!
思考こそ殺意丸出しの朱道だが、その殺気を外には出さずそのまま椿に背後より仕掛ける。
――が、その瞬間だった……。
「開眼!」
椿は叫ぶと同時に朱道でも分かるほど神素を解放する。この狭い部屋を椿という存在で埋めるような重圧。
それで一瞬動きを止めてしまったが、それでも椿が自分に気が付いておらず未だに正面を向いたままなので、朱道は迷わず突進する。
「な、に?」
朱道の全身を走るは衝撃。
腹の中心から血液のように巡回する衝撃が脳に達する瞬間、朱道の視界は真っ黒に染まり、力も抜けて行った。
朱道の動きが止まったのは椿の風のような拳が朱道の腹を抉っていたから。そして椿が手を引くと同時に朱道は倒れ込んだ。
「ふぅ、まさかここまでとは思わなかった。まさかいきなり私の“開眼”まで発動するとは油断し過ぎました」
「確かにな。仮にも朱道は朱雀を引いているんだ。それぐらいは当然だろ?」
黙って見ていた黒馬が話に参加するということは、つまりこの戦いは終了したということ。それはまさかの朱道の敗北という形を残して。
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