鳥籠の底は朱い道
「朱道はどうする? このままここに置いて置くのも体に悪い。開眼を発動させてしまったから手加減が出来なかった」
「いや、いいだろうそのままでも。初めての敗北だ、大人しくしているとは思えない。だからこのままここに閉じ込めておく」
「そう……」
朱道を気にかけた椿だが、黒馬の権限によりこのまま放置して部屋から出ようとする。
「…………よ」
椿は足を止めない。それほど微かな声だったらから。
「……ま、てよ」
「ん?」
今度は確かに聞こえたが、振り向いた先には倒れたままの朱道しかおらず気のせいだと思い、また歩き始める。
手加減をしていない以上、まともに受けた朱道が起き上がれるのは恐らく明日でも無理かもしれない。そう椿は思っている。
「待ってって言ってんだよ!」
「嘘だ……」
「ほぅ」
はっきりと呼びとめる朱道の叫び声。
返ってくるのは驚きと感心の反応。
椿が振り返った先には、両手を地面に押し当て無理矢理でも起き上がろうと足掻く朱道がいる。
――負けられないんだよ。オレは絶対に負けられない!
「まだ、オレは負けてないんだよ! 勝手に帰ってんじゃねぇ」
立ち上がり、ただ一直線に椿を睨む黒い瞳。
「動けるというの? あの一撃をまともに受けて? そんなことありえない。神素の攻撃を生身の体で受けて起き上がるなど……まさか神素に目覚めた?」
困惑の表情で状況を分析するが、すぐに朱道が神素に目覚めていないことを確認する。だからつまり朱道は生身の体で起き上ったということ。
でも、朱道が起き上がれたのは肉体面ではなく精神面。負けられないという強い信念。
だが、それでも起き上がるので精一杯であり、まともに戦うことなど出来ないだろう。
「驚いた。まさか神素なくして起き上がるとは。何が君を戦いに駆り立てる?」
「オレは生きている。それが戦う理由だ」
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