鳥籠の底は朱い道
昼に目覚めた朱道は、何事もなかったように部屋を出て居間へと向かう。
体は満足に動くのだが寝ていた場所が悪く、目覚めこそいいものではなかったので顔を洗おうと考えた朱道。
とりあえず居間に行くのは、誰か……父である黒馬がいるだろうから。

軽快に歩き、居間に入った瞬間、朱道は一歩で足を止めてしまう。
「――な、なんであんたがいる」
驚きの表情で呟く朱道だが、その相手も朱道の出現に驚きを隠せていない。
「――な、なんで動けるの? 後で運んであげるはずだったのに……」
そう、朱道の目の前にいるのは父ではなく、つい昨日まで死闘を繰り広げた椿だった。
しかもソファに座って完全に寛いでいる。
「知らねぇよ。ただ単に威力がなかっただけだろ。昨日の夜中にも一度は目覚めた」
「ウソ!? なんでそんなに早く? どんな回復だというの」
いまだに驚きを隠せない椿だが、すでに朱道の雰囲気は変わっている。
冷静に考えれば、朱道は目の前にいる女に初めての惨敗をした。それだけで昨日の続きと言わんばかりの殺気を放つ。
――だが、分かっているのか分かっていないのか、椿は全くの反応さえ示さず戦いという雰囲気ではない。
ひょっとすれば、家の中での戦闘を禁止する。という黒馬の命令を知っているのかもしれない。だから朱道は家の中では一切の戦闘を行えない。
ち、こいつオレの殺気を分かっていて無視してやがる。親父の命令を知ってやがるな。
いくら殺気を出そうが今は戦えないと理解した朱道は、仕方がなく殺気を消して舌打ちをする。
「とりあえず、なんであんたがここにいる。親父はどこに行った?」
「さぁ? どこに行ったかは分からない。けど多分、君の戦い相手を探しにでも言ったんじゃないか」
「オレの戦い相手はあんただ。負けたままで次の相手なんかいない。さっさとオレを死合え」
「今すぐにでも始めたい言い方だ」
「当たり前だ! 目の前にいるんだ、今ここでもあんたを殺したいんだよ」
「けど、黒馬から家での戦闘は禁止されている。けど、そうじゃなくても私とは戦いは出来ないんだよ。その黒馬に彼がいない時に君との戦闘は禁止されている。私がここにいるのはあくまで君の世話をするため」
「ふざけるな!」
やはり椿は黒馬の命令を知っていた。が、そんなこと今更どうでもいいこと。
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