鳥籠の底は朱い道
――そうしてただ待ち続けること一時間あまり、とうとう扉は開かれる。
「朱道、起きている?」
「来たか、さっさと殺し合え。次に手を抜いたら――」
「――待って。戦いに来たわけじゃない。昼食と風呂の準備をした。こんな所にいると体に悪い」
椿は部屋に入ることなく、ただ扉を開けたまま手招きするように朱道を待つ。
「ここを出て飯を食う? 風呂に入る? テメェに生かされていることが一番の毒なんだよ! いいから入ってこい」
朱道は吠えるがそれもしょうがない。何故ならどんな環境だろうが一番の毒であるのは“負け”という要素であり、それは死でもあったから。
それは二ケタの戦闘を繰り広げ、そして前回には命を賭けた戦いまで持ち出したことから嫌でも察する。
だが、それでも椿は殺し合いはしない。あくまで訓練であり、神素の解放が出来るまでである。
そしてそれはある種の“義務”でもある。
だからこそ椿は迷う。
ここで戦わないことも、戦うことすらも良い結果にはならない。八方ふさがりでも戦わない方がましだろう。何故なら戦わないなら必然と自分は恨まれ、そして自分を殺すことを目標として“生きる”のだから。
椿にはそれくらいの覚悟がある。朱道をみすみす殺すぐらいなら、いくらでも憎まれる悪役を買うと。
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