鳥籠の底は朱い道
――だが、そんな迷いと決心を両断するのは椿の背後の声。

「そうだな椿、朱道は殺して欲しいんだ、殺せ。勝手に戦い続けた罪を償え。どうせ弱いものには朱雀など継げる訳もないし、ましてや俺は必要がない」

いつの間にか帰ってきていた黒馬が椿の背後に立っていた。
だが、この黒馬の出現は朱道にとって幸運である。
戦いを仕向けるだけではなく、本気の殺し合いを命じているから。
「何を言っているの! 自分の息子に向かっていらないなんて。確かに約束を破って戦ったのは悪いと思う。けど、それはろくな訓練も受けていない朱道のため、だから私は朱道を殺さない」
不服と光る椿の双眼。
反抗というよりもそれは反乱にも近い危険な色。
だが、黒馬は驚きの一文字も表情には出さず、ただ椿を見下している。
「椿、お前はいつ朱道の育て方に口を出せるようになった? 数日世話をした程度で母親になったつもりか! 朱道は殺し合いでのみ生きる、そして負けは死と同じ。そうやって育ててきたんだ。死のない戦いなど無意味に等しい」
流石の育て親であり外道。
確かに黒馬の言っていることは的を得ているし、朱道も納得している。疑うこともないくらい黒馬の言葉に賛成する。
言うまでもない。言い合いでは圧倒的に黒馬が有利だし、椿の言葉が勝てる見込みはない。黒馬は朱道の親であるのだから。

結局、返答も出来ないまま椿は納得し、部屋の中へと入る。
朱道はこれで戦えると興奮を隠しきれないが、椿の表情で一気に冷める。
扉が閉められ二人っきりの空間になると、椿は明らかに戦ってもいないのに敗者の表情をしていて、そして泣いているように見える。
だけど、ゆっくりと近づき二人っきりの話が出来る距離で足を止めた。
< 31 / 69 >

この作品をシェア

pagetop