鳥籠の底は朱い道
「――本当に死ぬ気じゃないと本気を出せないの? それが負ける戦いでも」
「オレの負けは死だ。死のない戦いなど戦闘の価値もなく勝負にすらならない。そんなものに本気など出せるか。だが、今までのお前との戦いに手を抜いた覚えはないはないがな」
「そう、駄目なんだね。朱道はもうそうゆう形でないと強さを見出せなんだ。そのためにこれからも何百、何千という人を殺すというなら……やっぱり私がここで止めるしかない」
表情が一気に晴れる。
それは決意を固めたから。
誰の言葉でもなく、黒馬に言われたからでも自分のためでもなく、ただ単に朱道のことを考えて。
椿から溢れる異様な気配は間違いなく神素。まだ抑えているだろうが、最初から発動させる地点で本気なのは分かる。
それ以前に朱道の今までの経験で分かる。椿が命を賭けたということを。
「あぁ、そうだ。そうじゃないとダメだ。テメェは最初からオレに殺されればよかったんだ」
「恨むなら好きに恨むがいい。だが、私は後悔しない。このままの朱道ではいずれ駄目になる。強さの壁に潰される。だったらここで楽になりなさい!」
発射された右腕は弾丸の如き威圧感を醸し出し、そのまま朱道へと照準を合わせている。
朱道も椿の神素解放が序ノ口であったため、ギリギリで避けて見せ、そしてそのまま反撃の右腕を返す。
――が、分かっていた通り、神素の解放を少し増やすだけで朱道は捕えきれない。だから簡単に後ろを取られる。
本来なら、訓練のつもりなら朱道が振り向くまで反撃をしてこない椿であったが、今にそんな遠慮はいらず、容赦のない一撃が朱道の横腹に突き刺さる。
「――ぐ、がはっ!」
明らかに今までてとは違ったダメージ。受けたことを後悔するような一撃であったが、それは死とは程遠いダメージであった。
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