鳥籠の底は朱い道
吹き飛びながらも朱道は思う。
椿が手を抜いたことはありえない。それはつまりいくらの神素を用いろうとも朱道を殺す攻撃はそうそう簡単な一撃ではありえないと。
――だが、一撃で留め追撃を行ってこない椿。さっきの一撃は警告。
朱道もそのことを態勢を立ちなおした直後に悟る。
「この程度の動きが見きれないなら諦めた方がいい」
「ふざけんなよ。どうせ一撃じゃオレを殺せない。その程度の非力で何ほざいてやがるんだよ」
「そうね。確かに私には君を殺せる一撃はない。けど――」
椿が言葉の最中に消え去り、探そうという意識の中で鋭い痛みと共に、赤い飛沫が舞い散る。
椿に朱道を殺す一撃の打撃がなくとも、一撃で殺せる斬撃ならば持っている。
むしろ神素の解放した今、明らかに椿の手刀はそこらの刀よりも切れ味がいいだろう。
痛みがあるのは左腕であり、目で確認しなくとも血は流れているだろう。
この手刀ならば殺される。
そう朱道が思った時、起こった感情は絶望ではなく期待。
今、目の前にいるのは理性を持った獣――いや獣ではなく狩人だろう。そしてその狩人は常に自分だけだった。
同じだから期待できる。こいつなら自分を殺せる。本当に命のやり取りを出来ると。
だから自然と朱道の表情は壊れた人形のように不気味な笑みを零している。
「やってやるよ。狩人は二人もいらない、いるだけ邪魔だ。生き残った方が本物の狩人になる」
「狩人か……私は狩人だろうとも、狩るのは朱道、君だけだ。他の狩などに意味はないから」
「ははは、いいぜ? だったら狩ってみろよ! その刃でオレを殺してみろ」
朱道は相手が刀以上の鋭い一撃を持っているにも関わらず素手で突進する。
はっきりと不利なのは朱道だから黒馬に武器を要求すればなんでも出てくる。だが、事実上は椿も素手。そんな相手に素手以外の武器を使うことはありえない。
< 33 / 69 >

この作品をシェア

pagetop