鳥籠の底は朱い道
「朱道という意識は死んだのか? それとも眠っているだけなのか」
「ふっ、あれだけのことをしておいて今更自分の息子の心配か? あぁ自分の人形がいないと確かに不安ではあるか。だったら残念な知らせだ。朱道という意識は存在するが二度と目覚めることはない」
「……ち」
当たりたくない予感が当たったと黒馬は舌打ちをする。
――だが、まだ黒馬はこの空間にいないのだからまだましだろう。この“何か”からの殺気で充満し、この空間にいるだけで生きている心地がしないのだから。
いくら椿が本気で神素を解放しようが目の前にいる者には勝つことはできない。それほど絶望的な戦力差を植え付けられる。
そして椿は思う。朱道を殺してしまったから自分はこの化け物に喰われるのだと……それから逃れる手段はすでにないということを。
「ほぉ、屑は屑らしく諦めたか。だが賢明な判断だ。どうせ俺には傷一つ付けられない。俺を目覚めさせた褒美として一瞬で殺してやろう」
言葉と共に広げた両手はまるで巨大な鳥のようであり、それは自分を殺す存在であろうとも美しく描かれている。
途端、朱道の血により出来た血の泉が波打ちだし、自我を持つかのようにいくつもの赤線を描きながら空間を這う。
この立方体の空間を全て赤く染め上げるかのように進み、椿と朱道の体を囲む。
それはまるで赤い監獄。
二度と出られることのない地獄の檻だった。
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