鳥籠の底は朱い道
タンッと一回のステップで消える足音。
だが、朱道はすでに音など頼りにしていない。
なるほど、こうまでも違うものらしいな。残念だがはっきりと動きが見えてるぜ。
そう、朱道は椿の行動が手に取るように見えている。それもさっきまでの立場が逆転するほどはっきりと。
足音とは反対に自分の左側に移動した椿の体。そして容赦なく胴体を二つに分けようとする一線を描く椿の両手だが、まずの一撃を避け、そして二撃目の神素の刃を朱道は荒々しい獣の如き噛み砕いた。
その野蛮である姿に驚きを隠せない。
「な……」
驚きで身を引く椿だが、その片手には神素の刃はなく、まさに噛み砕かれた。
だが、驚きのあまり身を引こうが逃げ道などないことを失念して、椿は背後から放出された二本の槍が見えていない。
「きゃ、つ……」
悲鳴と共に貫く槍は椿の腕を貫通している。
ただもう一本は、一撃を受けたことによりなんとか避けることが出来た。
――しかし、この空間で血を流すということは……。
「お前の力は確かに便利だな。周りがよく見える」
朱道は目を瞑りながら言っている。
「まさか、今の一撃で私の能力を?」
「いや、正確にはお前の血らしいな。この空間で敵が血を流すとそいつのもつ能力を一時的に使えるらしい。そして……」
赤い目を開く朱道はいきなり自らの槍で手を貫く。そしてそのまま地面へと血を浸す。
――すると、朱道の血に反応して空間が騒ぎだす。威圧感が増し、殺気は倍増しているのが嫌でも感じさせられる。
――だが、これだけではない。朱道が目標を定めると一気に椿を囲む赤い槍の群れは、2や3ではなく一面に、10や20を超えている。
恐らく椿は獣の群れに放り込まれた小動物の気分だろう。
これだけの数をいくら眼で見えていても避けきれない。それはつまり、全ての槍を同時に放たれると確実に死ぬということ。
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