鳥籠の底は朱い道
――だが椿に恐怖はない。まだ、切り札は……あるから。
「オレの血はこの空間を更に強化する。これくらい分かればいいか。早速だがそろそろ死ね」
朱道は死刑宣告を下すと、同時に全ての槍が目標に向かって放たれる。
しかし、どの槍も椿を当てられない。それは椿が能力を解除して全ての神素を速度へと費やし、朱道の一瞬の隙を狙っているから。
槍の雨を掻い潜り、朱道の隙をつき目の前で一撃を放とうとするが、虚朱鳥フェニックスは椿の一撃を無残にも葬る。
いくら全ての神素を費やそうとも、椿の速度は朱道の動体視力を超えることは出来なかった。つまり朱道には槍を掻い潜る姿も、自分に向かってくる姿も確実に捉えていた。
そして無防備となった椿の血を虚朱鳥フェニックスは啜り始める。
「う、が……」
血を噴き出し、ゆっくりと貫いていく槍を拒めず、すでに体からは力が抜けていた。そうしてそのまま椿は体を朱道に預けてしまう。その腹を貫かれたまま。
「――あぁ、やっぱり私は死んでしまうの?」
「そうだ、オレの前に立ち、そして殺し合いをしてり以上、どっちかは死ぬ」
「――そっか、朱道は目覚めちゃったから。どうしょうもない力の差だった」
「当たり前だ、オレは朱雀。お前では到底勝てる訳がない」
椿は弱々しく微笑み、震える両手を上げ朱道を抱きしめる。

「あぁ朱道は確かに朱雀。だけど今の力は神素ではなく、霊素……そしてさっきの別な
意思の言葉から、朱雀の対なる存在が朱道の中にはいる……けど、そんなことよりも、
気がつけばこんなにも大きくなったんだね朱道。よかった、最後の最後で朱道を、自分
の……息子を……抱きしめられて…………」

 どんどん掠れる声の中、最後に椿は息絶えた。驚きの言葉を残して……。
「――な、んだと?」
椿は今、自分のことを“息子”と呼んだ。確かに朱道は母を知らず、椿が本当に母なのかもしれない。だが、そんな存在を朱道は自ら殺した。
いや、この期に及んで椿が嘘を言うはずがない。それに少ない期間だったけど思えば椿は本当に母らしい姿だった。
朱道も不思議とそんな風に思えていたから。
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