鳥籠の底は朱い道
黒影の自分
――更に一週間が過ぎた昼。
朱道は何をするわけでもなくただ山を散歩している。
何も見つからない。
朱道の眼は自然と生き物がいないかを探すハンターの目となっている。
見つからない。
足を進める中、生き物の気配を全く感じない森を徘徊する。
あぁここは静かすぎる。
穏やかな感想の中、朱道には生き物のいない時化た森に苛立ちを感じさせる。
――そんな意味のなかった帰り道。朱道は風ではない草の揺れを逃さない。
「そこかっ!」
草の揺れから気配を辿り、朱道は一気に草むらを駆ける。どうして今までこの気配に気が付けなかったのは分からない。
――けど草むらの向こうには一匹の生き物。

闇夜に佇むかの如き黒猫が驚くこともなく突然現れた朱道を血の結晶でできた眼で睨みつける。

明らかな敵意を感じる朱道。
立ち尽くしてしまったのは久しぶりに本物の“野生”を感じているから。
朱道には分かる。どうしょうもないくらい分かる。
そうか、こいつはオレと同類か……。
この黒猫もまた殺戮でのみ生きてきたのだろう。故に死んだ森にも溶け込んである種の背景となり、今の今まで朱道には気が付けなかった。
この森にいる以上、朱道がどれだけ危険な存在であるかは逃げ出した生き物たちで証明されている。にもかかわらずこの一匹の黒猫はここに留まり、しかも目の前に現れたのに動揺すらしない。
諦めではない。この黒猫には未来が見えている。こんな所で死ぬつもりなど毛頭ないと小さな瞳にはその意思を具現化したような色が宿る。
――珍しくなどない。前にもいたのだから、自分の弱さを否定して自分の方が強いと自惚れる者がいたのだから。
だから朱道がやることは変わらない。

殺す。

ただの一念で朱道の体は動く。
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