鳥籠の底は朱い道
ある日の午後。
朱道はいつもの散歩を終え自宅に帰るのだが、帰るフリをしてクロを付けた。
もちろん気配など出さず自然と同化するほど完璧な尾行だろう。
ひょっとしたら自分といる時だけクロはそんな偽善者じみたことをしているのではないかという疑問から、クロの私生活に興味を抱き今にいる。
――クロはもちろんのこと気が付くことなく歩いて行く。その方向はどこでもなく、まるで自由そのもの。
しかし一時間もしない内にクロは軽い足取りから方向性があり、迷うことない歩きへと変わる。
お、どうやらどこかに行くらしいな。
朱道はやっと動いたことに喜びを感じるのだがすでに時間がない。
そう、この後朱道は黒馬の連れてきた相手と戦わないといけない。
――さて、どうするか……。
今までの朱道ならば迷わず戦っていただろう。しかし今は迷うという感情は存在してしまっていた。
だがそれだけではない。朱道は帰ることなくそのままクロの尾行を続けたのだ。
初めて逆らった朱道だがそこに後悔はない。
朱道はクロを追うことで一つの自由を手に入れたのだ。
尾行を続けた朱道だがやはりクロは必要最低限の“殺し”と言われる行為をしていない。
そうやって常にクロは生きてきたらしい。
そしても奥に進むにつれて向かう先、それはすでに森ではなく道路がありその先には小さな村が見える。
――こんな近くに村があったのか。
確かに村は見える。だけどそこに行くにはどれだけかかると聞かれたら恐らく昼の今でも日が暮れる。それほど遠い距離。
とりあえず今日はクロの食事の在り処が分かっただけでよしとして、朱道は尾行を止め帰ることにした。
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