鳥籠の底は朱い道
「――あぁ退屈だ」
朱道が住んでいるのは人里離れた山奥であり、殺しをしない時は自由に山で過ごしている。
人は親である黒馬以外いない。母親は朱道が物心つく前からいないから知らない。黒馬に母がいるかすら聞いたことがないけど、恐らくいない。
二人っきりの生活が成り立つのは朱道が完璧に黒馬の言うことを聞くからだろう。だから朱道はこの山から出ることはない。そうやって“命令”されたのだから。

今日は昼になっても戦いがない。
親父はオレの相手を見つけられないでいるようだな。
朱道はここ数日、殺し合いをしていない。それは朱道の読み通り、黒馬は朱道の相手を見つけられないから。
自主的にトレーニングをする日々だったが、ただ一度も動物ですら殺していない……というよりも遭遇していない。
すでにこの山では動物ですら朱道を恐れている。鳥の声すら山奥にいるのに聞いていない。それはもちろん、朱道に見つかるから。
知らずの内に朱道はこの山で絶対的な支配者となっているが、それはもちろん喜ばしいことではない。何故なら狩りが出来ないということだから。
「はぁ、退屈だ……」
二度目の溜め息と一緒に出る退屈の一言。
朱道にとって自分が楽しめる娯楽は何一つもない。強いて言えば殺し合いの最中のみ。
だからその殺し合いがない今、文字通り朱道は死ぬほど退屈である。
< 7 / 69 >

この作品をシェア

pagetop