たった一人の甘々王子さま
「優、お前が先だろ?」
俊樹がドアを指差す。
「あ、あぁ――――」
一番後ろを歩いていた優樹が前に出る。
「優樹......」
エミも心配になってくる。不安げな顔が目にはいる。
そんなエミに作り笑顔で答える優樹。
社長室の前で一呼吸。
『よし、行く。』
覚悟を決めてドアをノックする。
コンコン――
『どうぞ―――』
部屋の中から父親の声が聞こえる。
「失礼します。」
優樹は目を瞑ってドアを開けた。
「お待たせしました。父さん、今日はなの話――――」
優樹が俯いた顔を上げながら閉じていた目をあけ部屋に入ると父親の机の前にたっている一人の男性が目にはいった。
その男性は、俊樹くらいの身長だろう。学生時代はスポーツでもやっていたのが伺えるガッチリとした体格だ。
オーダーしたスーツなのか、細いストライプのスーツが似合っていて格好いい。
さらに、胸板が俊樹よりも厚目の男らしい体格で、優樹が憧れる体つきの持ち主だ。
軽く日焼けした肌が、益々男らしい。
優しい二重の目が優樹をとらえる。
『ドキン――!!』
優樹の胸が音をたてた。
しかし、それどころではない優樹。緊張のせいだと思い直す。
「優樹、こっちへ来てくれるか?」
父親が歩みを止めた優樹に声をかける。
「―――はい。」
返事をし、優樹は父親の前へ―――名前も知らぬ先に来ていた男性の少し離れた隣に立つ。
「俊樹とエミさんはそちらのソファーに。」
「はい。」
「おじ様、今晩は。お邪魔します。」
俊樹とエミは挨拶をし、言われるままソファーに腰かける。
ドキドキドキ―――――――
優樹の緊張が限界に近くなる。
合格発表の時以来か?
沈黙に耐えきれず、優樹が声を出す。
目線は怖くて父親が見れないから坂越ずらして顎のところを見つめる。
「父さん――自分、なにかミスしたのかな?此処に呼ばれるようなことした覚えがないんだけど........」
そんな優樹の心配を笑って蹴散らす父。
「ッハハハハハ――――」
優樹もビックリする。
もちろん、俊樹もエミもだ。
「いやー、すまない。心配させてしまったんだね――」
3人共、久しぶりに父親の笑い声を聞き驚く。
「は?じゃあなに?自分、結構悩んでたんだけど――――」
いつもと変わらず悪態をつく優樹。
『悩んで損した―――』
呟きながらちょっとホッとして父を見た。
「実はな、優樹に紹介したい人が居てね―――。」
父親はそう言いながら優樹のとなりに立つ男性に視線を向ける。
優樹もつられて隣に立つ男性を見る。
『あれ?この人、どこかで見た気がする―――』
ふと、優樹が思いを馳せたとき、父親から衝撃的な言葉が発せられた。
「彼は相楽浩司君と言ってね。海外事業部のエースだ。そして―――――」
父親が一呼吸おく。
「優樹、君の婚約者だよ。」