たった一人の甘々王子さま
昼休み。
いつものように浩司の手作りお弁当を食べ終えて、遠藤くんを待つ。
料理上手の浩司と同棲してもう1年。
そろそろ、優樹も料理が上手くなると良いのだが........なかなか巧く行きません。
『コンコン、ガラッ!』
「田所先生、居ますか?」
遠藤くんがやって来た。
「はい、ここです。そちらに行きます。吉野先生、すみませんが少しの間お借りします。」
「あぁ。鍵はまた俺に戻してくれたらいいから。」
「ありがとうございます。」
優樹は吉野先生に相談して、隣の準備室兼会議室を借りることにしたのだ。
「遠藤くん、隣の部屋にお願いします。どうぞ。」
鍵を開けてドアもあける。
「お忙しいのに、すみません。ありがとうございます。」
遠藤くんも丁寧に頭を下げる。
「遠藤くん、今日はどうしましたか?相談なら担任の吉野先生が適任だと思うのですが........」
優樹の声に反応して、
「実は俺、先生みたいに大学へ行ってもバスケがしたいんです。先生の通う大学のレベルを教えてほしいんです。」
「え?うちの大学?」
「はい。そうです。田所先生の身のこなしかた、格好いいです。背が高いのにちゃんと腰を落としてプレーする姿に心引かれました。なので、先生の大学をまず調べてみようと思いましたが、聞いた方が早いと思って........」
優樹は愛の告白じゃなくでほっと息をついた。告白だなんて、浩司に知られたらどんなことされるか...........ちょっと怖い。
「うーん。遠藤くんがねぇ~うちにかぁ........遠藤くんなら、もう少しレベルの高いところでもよいのでは?」
「え?それは、バスケですか?勉強ですか?あのですね、先生......言いにくいんですけど、俺......勉強の方はちょっと........バスケの好きなら負けないんですけど........」
遠藤くんが俯きながら頬をポリポリかいて答える。
「........遠藤くん。勉強、苦手なんだね。」
「まぁ......、はい。」
優樹も、その気持ちはわからなくもない。
自分も、どちらかと言えば勉強は苦手だ。
バスケを頑張りたいならもっと力を入れている大学もあるのだが、学力の方もそれなりに備えてないと辛いところもあるのだが........
「遠藤くん、スポーツ推薦で頑張ってみるのはどうですか?その場合、怪我をしてしまうと折角のチャンスも駄目になるので、よく考えてくださいね。では、質問はまだありますか?」
「あ、あの!俺でもスポーツ推薦とれますか?先生のいる大学行けますか?」
「あ......すみません、自分では分からないです。その辺りは、自分よりも担任の先生や進路指導の先生と話し合ってもらえますか?」
「そ、そうですよね。すみません。今日はありがとうございました。」
遠藤くんは次の授業があるからと、笑顔で部屋を出ていった。
「でも、何でそれくらいで自分に相談したんだろう......ただの教育実習生なのに。」
首をかしげる優樹。
10代男子の仄かな恋心に触れたのだが、全く知るよしもなく..........
自分への恋に鈍い優樹は、あっという間に実習期間を終えたのだった。