たった一人の甘々王子さま
現在地。
田所コーポレーション。
父の会社だ。
秘書の川村さんに連絡して、予定時間10分前に到着。
今日は朝から浩司に愛されて、大学へ。
幸せな気持ちで午前の講義を受けた。
隣に座るエミも幸せそうで、俊樹との恋が順調なことがわかる。
『ねぇ、エミ。今日の俊の行動ってわかる?ちょっと頼みたいことがあるんだよね。また父さんのお呼びがかかってさ......付き合ってもらいたくて。』
『あら、また呼び出しなの?ご苦労様。俊樹くんの予定ね。えっと、確か教授の論文作成に協力要請が入ったらしくて、教授の部屋にこもってるはずだよ?』
エミは鞄から取り出した手帳を見て優樹に教えてくれた。
『エミ、また俊と会えないの?今回はどれくらい?』
『んとね、取り合えず1週間かな。時間ができたら会いに来てくれるし、気にしてないよ。だってね、海外にいる訳じゃないんだよ?それにね――――』
「俊樹くんがね、『大学卒業したら結婚しようね』ってプロポーズしてくれたんだよ。」
って、薬指に輝く指輪を見せながら、笑顔で話してくれたエミの顔はとても綺麗だ。
優樹は昼間の出来事を思い出していた。
「............俊もエミの事、本気で幸せにしたいんだ。だから今、会う時間が減っても頑張れるんだな........」
二人の気持ちの強さを感じながら自分達もそうなれるように......と、思う優樹。
ここは以前も来た役員専用の入り口。
川村さんから指定されたインターフォンを押す。
『はい、秘書室。』
「あ、優樹です。川村さん、お願いします。」
『どうぞ、お入りください。社長室までお越しください。お待ちしております。』
「ありがとうございます。」
優樹は開けてもらった自動ドアを通り抜け、エレベーターの前まで歩く。
今日は、たった一人で。
エレベーターが到着して乗り込む。
浩司と初めてあったあの日を思い出す。
「あの時、すっごく嫌だったんだよな........父さんに会うの。」
目的地に到着する。
優樹の緊張もあの時のようにドキドキ。
気がつけば、もう社長室の前。
優樹は一呼吸して、ノックする。
コンコン――――
『はい。』
「優樹です。」
『入りなさい。』
「はい、失礼します。」
優樹が扉を開けると、父親と浩司が部屋で待っていた。
「お待たせしました。父さん、久しぶりです。今日の話って?」
社長室の椅子に座る父親の前に優樹は立つ。勿論、その隣には浩司が立っている。
浩司は、優樹と目が合うと少し微笑んでくれたが直ぐに視線を社長に向けた。
それが優樹にはとても寂しく感じた。
「優樹、久しぶりだね。突然呼び出してすまなかったね。」
「父さんの呼び出しは、いつも急だよ。で、今回の話ってなんだった?急ぎの用件?」
父親は優樹の問には答えず、
「優樹は浩司君との同棲、順調かな?」
と、聞いてきたのだ。
まさか、父親からそんなことを聞かれるとは思わず驚く優樹。
冗談だろう?なんて思ったのだが、父親の表情は固く微動だにしないので真面目に聞いているんだろうと感じた。
「勿論、順調だよ。最近、料理も手伝ってるし。浩司には迷惑かけることもあるけれど、何とか頑張ってるよ。心配しなくても良いよ。」
と、優樹は胸を張って答える。
「そうか..........なら、辛いか........」
『辛いか?』父親から発せられた言葉に疑問が湧く優樹。
浩司は相変わらず何も言わない。
少し、不安が過る。
「なぁ、優樹、1つ質問しても良いかい?」
と、父親に聞かれ『嫌だとは言えず』素直に「はい。」と、答えた。
「実はね、優樹......浩司くんと..........」
「え?浩司となに?」
最後まではっきり言わない父親にこちらから質問する。
「いや、だからね......」
「うん、だから何?教えてよ、父さん。」
次に発せられた父親の声に優樹は耳を疑った?。
「優樹、浩司くんと別れられるかい?」