たった一人の甘々王子さま
「優樹は浩司君の出張先に付いて行きたいのかい?」
「え?もちろん。傍に居たいもん。絶対に離れないもん!」
「なら、学業はどうするんだい?」
「え?」
その後の自分の事など何も考えずに
『離れない!何処にでも付いていくの!』
などと言い切った優樹の目は泳いでいる。
特に考えがあったわけではなく、一時の感情で出た言葉だった訳で..........
優樹は二の次が出てこず、黙る。
「まぁ、計画性の無さは想定内だけどね。優樹の場合は。」
父親に図星をつかれるとさすがに悔しい。
『俊樹なら先手をうって攻撃してくるから、やりにくいんだよ。今回は相手が優樹で助かるよ。』
なんて、父親の呟いた声まで聞こえたものだから益々腹も立つ。
「フン!どうせ俊と違って詰めが甘いですよ!海外出張とか想像つくわけないし。知るか!」
拗ねた優樹は浩司の胸に顔を埋めてしまう。そんな拗ねて甘えてくる優樹が可愛くて仕方がないのだが、なんせ父親でもある社長の前で手を出すことはできない。
キスのひとつでもしたい浩司は耐えるのみ。
「優樹、社長の提案を聞いてみないのかい?」
少し、優樹との距離がほしくて声をかける。
「提案?」
「そう、提案。ほら、社長の方を向いて話を聞こうよ、ね?」
自分に抱きつく優樹を引き剥がして肩に手を置き、クルリと方向を変える。
「父さん、提案あるの?」
優樹がぶっきら棒に質問するので父親も苦笑いだ。
「........優樹が、浩司君と離れたくないのならば、ないこともないがな。」
「チッ、どっちなんだよ........」
優樹の言葉がいままでのようになっていく......
やはり、浩司以外だと女の子らしさの欠片もない。
父親からの提案は、
「優樹............留学、するかい?」
父親からの提案は気にも留めていなかった言葉だった。
「え、していいの?留学だよ?俊じゃないよ!自分だよ?」
「優樹は、大学辞めたくはないんだろう?そして、浩司くんとも離れたくない。なら、通う場所を変えなくてはいけないよね?」
「それは、そうだけどさ。自分、浩司がどこの国に行くのかも解らないんだけど。」
『留学先なんてもっとわからないし。』
と、呟く。
「優樹が本当に浩司君に付いていくのなら、大学はこちらで手配はするよ。今日は優樹の本当の気持ちを知りたかっただけだからね。」
『では、私は会議があるからこれで失礼するよ。』
と、父親は部屋を出ていった。
また浩司と部屋に残された優樹。
今回は二人っきりだが。