たった一人の甘々王子さま
「優樹......」
耳元で呼び掛けられた声が震えている。
「浩司?」
自分を呼ぶ大好きな人の名前を言葉にする。
「こっち、向いてくれる?」
いつもの浩司なら強引に振り向かす事だってするのに........なんて、思いながらゆっくりと向きを変える。
そして、見上げる。
そこには泣きそうなくらい嬉しそうな浩司の顔がある。
「泣いてるの?」
なんて、優樹が聞くと、瞬きした浩司の目から涙がこぼれ落ちていく。
「優樹、俺を選んでくれてありがとう。」
そう言って、優樹にキスをする。
啄むようなキスを......
だけど、それだけじゃ足りなくて、だんだん絡み合って、もう離したくないってキスが続く。
息が続かなくなった優樹が浩司の胸をトントン叩くとやっと唇が離れた。
「こ、浩司......くるしーよッ........」
「ごめん......嬉くって、つい........」
浩司の額が優樹の額にコツンと触れる。
優樹は今朝、求められたときに浩司が呟いていたことを思いだし聞いてみることに。
「ねぇ、浩司。今朝さ、何か言ってたよね?何て言ってたの?」
「え?今朝って?いつ頃?ご飯のとき?」
浩司は気づいてない素振りだ。
わざとなのか?
優樹は、時間帯を細かく絞っていく。
「えっと、浩司と........してるとき。」
「ん?なに?優樹、聞こえないよ。」
浩司が聞き返すも、優樹は『わざとだ!』
と、感じた。
何故なら、浩司の口元がニヤリとしたから。
「もういい、何て言ったのか聞き取りにくくて気になっただけだもん。別に知らなくていいしッ。」
『フン!』と、優樹がそっぽを向くと
「優樹、ごめんね。」
と、浩司が呟く。
「え?なに?教えてくれるの?」
優樹はまた浩司の方を見る。
浩司は優樹を見つめただけで、
「今、言ったよ。」
そう答えた。
「え?何でいつもそうやってはぐらかの?浩司の意地悪!」
優樹は、浩司のジャケットの胸辺りを掴んで俯いた。少し、鼻を啜る音が聞こえる。
「だからね、『優樹、ごめんね』って言ったの。」
浩司は優樹を包み込みながら伝えていく。
「俺、今夜、優樹が社長と話をする事を知っていたんだよ。そこで、優樹には絶対に俺のことを選んでほしくてさ。だから、俺のことを感じて、求めて、愛してもらえるように抱いた。それと、社長に辛いことを言われて、泣いてしまうだろうって事も分かってた。だから、抱きながら『ごめんね』って言ったんだよ。不安にさせてごめん。」
浩司は言い終えるとホッとした表情だ。
優樹も、浩司に伝えたい思いを言葉にした。
「1年前、自分が浩司のこと、こんなにも好きになるなんて思わなかったよ。だけど、そうさせたのって浩司なんだからね?分かってる?もうね、浩司が居ないとダメなの。浩司しか、欲しくないの。ずっと傍にいてくれないと........死んじゃうんだからね。........責任、ちゃんと取ってよね........」
優樹は、恥ずかしくなって両手で顔を覆い隠した。
そして、
「........昔のこと、まだ思い出せなくて本当にごめんね。」
その言葉を聞いた浩司は、優樹のことを抱き締めた。
『無理に思い出さなくていいよ。』
と、囁きながら。