たった一人の甘々王子さま


「さて、優樹はこの後どうするの?マンションに帰る?」


優樹を抱き締めながら聞いた。


「え?..........一緒に帰れないの?」


今の甘い雰囲気が終わりそうで少し寂しげに言う。自然と屁のじ口。


そんな反応が見られてまた喜ぶのは浩司で、本能を理性で押さえつける。
一呼吸おいてから語り始める。


「もう少し纏めておきたい案件があるんだ。まだ手が掛かりそうなんだ。........来週会議があってね、そのための資料なんだけどさ......」


今週は1度も浩司と一緒に晩ご飯が食べれなかった。
朝目覚めると隣に浩司がいて安心するのだが..........優樹の考えは、


『やっぱり、一緒に居たいもん。』


「ねぇ、ここで........大人しく待ってるから。一緒に、帰りたい。........ダメ?」


優樹のおねだりに答えたいのだが、今抱かえているのは大事な仕事。ミスがあっては取り返しがつかなくなる。
何度も繰り返し確認していくので終了時間は決められない。いや、分からない。それまで優樹を待たせておくのが辛い。


「浩司........駄目かな?仕事、邪魔しないから。」


優樹が可愛くて仕方がないのだが、ここは会社で、まだ仕事中。
まだ勤務を終えていないのに休憩時間を使って此処に居るのだ。
そろそろ仕事に戻らないと仲間にも迷惑がかかる。


「優樹、ごめん。まだ仕事が終わりそうもないんだよ。何時になるか分からないから、やっぱりマンションで待っていてほしい。タクシーで帰れるよう手配するから、ね?」


優樹は浩司の言葉に素直に頷けない。
しかし、浩司の大変さも分からない訳ではないし......我が儘言って困らせたいとも思わない。


「優樹の気持ちもわかってるよ。俺も、優樹が大切で、離れたくない。傍にいてほしい。しかし、俺が優樹のことを幸せにするためには仕事も大切なんだ。今取り組んでいる仕事がそう。来月からの長期出張で、とても重要になる事案なんだよ。」


そう諭すと優樹も納得してくれた。
そして、甘い言葉も忘れない。


『俺も、昨夜と今朝だけじゃ優樹が足りない。何時になるか分からないけど、帰ったら優樹のこと抱くよ。お風呂入って待っててくれる?』


耳元で囁き、響く低音が優樹の心臓をきゅッと締め付ける。


「分かった、帰って待ってる。じゃあ、少し充電する。」


優樹はそう言って、浩司の胸元のジャケットの襟を掴んで前屈みにして


『カプッ!』


浩司の唇に自分の唇で噛みついた。と、いうより挟み込んだ。そしてそのまま吸い付き、ペロッと舐めて離れた。


「はい、終了。」


優樹は浩司から離れてドアの前へ。
驚きで動けない浩司は立ち竦んだまま。


「浩司、お仕事終わったら連絡してね。待ってるから。じゃあ、暫しのお別れ。」


『バイバイ』


と、手を振って優樹は社長室を出ていった。




『不意討ち、ヤられた..........』


浩司の顔が赤く染まったのは言うまでもなく..........


「このまま仕事って、結構キツいな........」


額に手をやり溜め息1つ。


『早く仕上げて、優樹を補給しないと......』


と、気合いをいれた。



来月からの海外出張に優樹と共に行けることを喜びを噛み締めて、より一層仕事に取り組んだ。

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