たった一人の甘々王子さま
数日後。
秘書の川村さんから連絡が来た。
『優樹さん、留学先が決まりました。大学への届け出はこちらで済ませておきます。必要な書類へのサインを受け取りに伺います。急ぎでもありますので、本日でもよろしいですか?』
『はい、宜しくお願いします。では、学食で待っています。また連絡ください。』
で、今、学食にいる。エミも一緒に。
「優樹、思いきったね。やっぱり女は恋するとすごいね~」
なんて茶化すから恥ずかしくなる。
「ほら、その仕草も!今までの優樹なら恥ずかしがらずに蹴散らしてたよ。『んなことねぇーよ!』ってさ。」
エミさん、よくご存じで........
何も言えない優樹を見てニヤリ。
「エミさ、最近......特に、俊と似てるって思うよ。」
コーヒーを飲みながら思いをポツリ。
「似た者夫婦ってよくいうからね~。改めてそう言われると、そうかもね。優樹たちより、私たちは付き合い長いもの。」
エミも笑顔で返す。そして、
「ほんと、思いきるわよね。それにしても、私と遊び半分で習得した英語、こんなところで役に立つなんてね。」
「うん、エミには感謝だよね。」
実は、優樹と俊樹は海外生活を送っていたエミに語学を教えてもらっていた。
負けず嫌いの双子が親子で英語を話しているエミに嫉妬して
『自分達にもその言葉教えろ!』
と、強要したのが始まり。
会っているときはもちろん、離れているときもできるだけ日本語を使わない様にしていた。
父親の取引先や社員たちも練習相手だった。
優樹は俊樹に、俊樹は優樹に負けたくなくて習得に励んだ。
俊樹の場合は好きな女の子が話す言葉が分からないのが悔しかったのだろう。
懐かしい思い出を語り合い、二人で笑う。
そこへ、
「優樹さん、お待たせしました。」
と、父の秘書である川村さんがやって来た。
「あ、お疲れ様です。わざわざありがとうございます。」
優樹も隣に座ってもらうよう荷物を退けた。
「いえ、私はこのままで結構です。では、書類の方はこちらです。」
椅子に座ることなく仕事をする川村さんに優樹は苦笑い。
「川村さん。座ってもらって方が目立たなくて助かるんですよ?お願いですから、ここへ。」
優樹が書類を受けとることなく隣の椅子へ促す。
川村さんも回りを見渡し、要らぬ視線を感じて『お言葉に甘えて......』と、やっと座ってくれた。
そして、すぐ仕事モードだ。
「優樹さんが、英語を習得されているので留学する候補先が早く見つかりました。その中から社長がお選びになったのがこちらの大学です。」
書類を取り出して直ぐに話始める。
「相楽さんの出張先と、お二人が住むマンション、そして優樹さんが通うことになる大学........この三ヶ所が大切でして。特に優樹さんの住む場所、此方が社長のご希望する内容に見合う為には苦労いたしました。」
大学は、今通う大学から留学するのだから学校側と提携のあるところに絞られるし。まぁ、多少は融通が聞くとは思うけどね......なんて、任せっぱなしの優樹は思った。
出張先も決まった場所なのだから悩むまでもない。
やはり、大事な娘を海外へ送り出す親としては不自由させたくないと悩むのだろう。
「浩司とふたりで住めれば何処でも良かったのに。」
なんて優樹が言えば、
「日本ではないのですよ?社長が治安の悪いところに優樹さんの住まいを決めるわけはないでしょう?」
『それに、』と、付け加えてエミの方を見る
「俊樹さんと愛美さんの事もそうですよ?俊樹さんの強引さは昔から変わっていないので........いえ、最近では手が込んできましたね。正直、手を焼きます。」
優樹はふと、金曜日の社長室でのことを思い出した。
『俊樹は先手を打ってくるから大変なんだよ。』
父親の言葉だ。
「川村さんも俊樹のプロポーズの話知ってるの?」
何気なく優樹が質問する。
エミは驚く。