たった一人の甘々王子さま
「もちろん、存じ上げております。今の俊樹さんはその為に社長の出された課題をクリアするべく、愛美さんとの時間を減らされても負けることなく立ち向かわれております。まぁ、その課題内容もご自分で決められましたが。」
川村さんが淡々と語るのにエミの顔は赤くなっていく。
「さぁ、優樹さん、こちらの書類です。今回の留学は特別措置として行われているんですよ?通常、こんなにも早く事が進むとは思わないで頂きたいです。」
確かに、来月から浩司と共に海外へ行くのにもう月半ば。
父親と川村さんの仕事の早さに脱帽。
「すみません、お手数お掛けして..........」
優樹が肩を竦めて言うと、川村さんは書類の確認をしながら
「まぁ、優樹さんの我が儘と言われそうなお願いは今回初めてではないですか?」
と、言う。
「え?」
「俊樹さんほど頻繁にお願いされると此方の業務に差し障りがありますが........
まぁ、今回位の事でしたらこなせる範囲ではありますよ。」
『一応、田所社長の第一秘書ですから。』
そう付け加えて川村さんは去っていった。
川村さんの背中を見つめていると、
「優樹、ほんとに行っちゃうんだね。
あ、向こうでお父様達に会ったら『愛美は元気にやってます。』って、伝えてね。」
染々とエミがいう。
「それはもちろん!でも、エミの父さん忙しいんじゃ......」
優樹もエミの両親を思う。
「優樹のこと話したら、『空港まで迎えにいくよ』って話してくれたよ。どうする?頼もうか?」
「え?そこまでしてもらうのは申し訳ないよ......浩司もいるしさ。落ち着いたら、会いに行きますって伝えておいてよ。」
「そう?まぁ、二人の時間がなくなっちゃうのも寂しいわね。あ、ちゃんと単位取るんだよ?もう電話してあげられないんだからね?」
ウインクしたエミが恥ずかしくて見れない。
「お互いに教師になる夢を叶えるんだもんね。向こうに行っても頑張るよ。」
優樹はそう言って、空を見上げる。
食堂の窓から差し込む陽射しが暖かくて、日本を離れるんだって思いをじわりと実感させてくれる。
お互いの気持ちを確認して、認め合う。
また1つ二人の距離が近づく。
浩司の海外出張と優樹の留学が始まる。