たった一人の甘々王子さま


「え?な、なんで?」


突然の出来事で優樹はその場にしゃがむ。
チャックを上げる前だった為、しゃがんだ弾みでドレスの肩の部分がズレる。


部屋の奥で誰かの声がする。
非常灯がついてさっきよりは明るさが増す。


「ごめんなサーイ!荷物を纏めて運んでいたらブレーカーに、当たったみたいです!モーターが暖まるまで少し時間がかかるため暫くはこの明るさです。」


「自家発電に切り替わらないの?」


「すみません!詳しくわからなくて......」


スタッフの声があちこちで飛び交う。
優樹はしゃがんだまま震えている。


「ユーキ?大丈夫?しばらくそこで待ってて?まだ、ドレス着てないんでしょ?」


「あ......うん。ごめん......」


「いいのよ、こちらこそごめんなさい!しばらくそのままでお願いね。」


メグらしき声が聞こえてホッとしたが、気配はすぐに消えてなくなる。
そばには誰もいない。
遠くで走り回る足音は聞こえる。




暗闇が嫌いなわけではないが、優樹の心臓はドキドキというより、ドクドクしている。




『怖い!!誰か、助けて!!!』


遠くで小さな女の子の声が聞こえた。


『誰か!誰か!!』


優樹の耳に誰の声だかわからない、小さな女の子の声が聞こえる。
居るはずもない子供の声が聞こえて優樹は怖くなるばかりで動けない。
目を閉じると女の子が見える。


暗くて寒い部屋に、たった一人でいる女の子。
『泣いているの?』
その女の子は誰だかわからない。
可愛いドレスを着ている。


優樹が手を伸ばすとその女の子は遠くに行ってしまう。
泣きながら優樹から遠退く。


『お願い!助けて!』


女の子の後ろに誰かが居る。


『駄目だよ、こっちに来て!助けてあげるから!』


優樹が手を伸ばすのだが、女の子は、後ろにいる大人に捕まって口を押さえられる。
小さな女の子が暴れる。
大人の力に敵うはずもない。
女の子がぐったりとしていく..........


そのとき、『ガチャッ!』と、ドアが開く音が聞こえる。



「やだ!誰かっ!怖い!助けて!」


「優樹?」


「やだっ!来ないでっ......!やっ........と....としっ......としっ!俊!助けてっ!」


「優樹?!」


「やだぁ......!くるなぁ......」


「優樹!!!」



暗闇で泣き叫ぶ声が聞こえて、隣の部屋にいた浩司は優樹の着替えている更衣室に入ってきた。
だが、浩司だと気づかない優樹は身を縮こめている。


浩司は、うずくまって震える優樹に声をかけるも、取りつく島もない。
ずっと『ヤダ!ヤダ!』と、叫ぶだけ。


「優樹!俺だよ?顔あげて?ほら、こっち向いて!」


無理矢理抱き起こして、優樹を抱き締める。浩司の身体全部で抱き締める。


それでも、優樹は顔を振り逃れようとする。『と、俊......たすけて....』と。


「優樹!俊樹くんじゃない。ほら、俺を見て?」


浩司は力業で優樹を抱き倒し、座った状態でのお姫様だっこをする。
左腕で優樹の頭を固定して、右手で頬と顎を押さえる。


ほんの少し視線が絡まると、浩司の唇が優樹のそれを包み込む。
段々と深いキスになり、優樹のざわついた心を落ち着かせていく。

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