たった一人の甘々王子さま
優樹の抵抗する動きがなくなったのを確認してそっと唇を離す。
「優樹?どうした?何があった?」
もう一度、浩司が問いかける。
流した涙のあとを拭いながら。
じっと、優樹を見つめたままだ。
「......こっ......こ....うじ......?」
振り絞って声を出した優樹は抱かれている胸に縋りつく。
浩司は、『そうだよ。』と優しく頷く。
「優樹?何があったの?」
「や......分かんない......でも、怖いの。傍にいて......」
「優樹?俺はずっと傍にいるよ。」
抱き締める優樹の肩をさすりながら声をこけていく。浩司に包まれていても小さく震え、肩で息をしている。
「やなの、誰かが、どっかに連れてくの。怖いの。暗くて......寒くて......誰もいないの..............グスッ......」
泣き出した優樹を包み込みながら浩司は、ピンと来た。
俊樹から聞いていた話が頭を過る。
『相楽の創立記念パーティーの数日後、優樹が誘拐されました。』
「ドレスと暗闇であのときの記憶が........?まさか........」
その時、部屋の明かりがつく。
更衣室からかなり離れた位置から足音と声が届く。
「ユーキ?大丈夫?開けてもいいかしら?」
スタッフの声が聞こえた。
優樹は浩司の腕のなかで固く目をつぶり震えたまま。
「俺が居るのでいいですよ。暗闇で驚いて今は、話せる状態出はでないので暫くはここにいていいですか?」
優樹が話せる状態出はないので、浩司が対応する。
「あら?ダーリンがいるのね!それじゃあちょっとお願いするわね。この暗闇で配送された荷物がすべて倒れてしまって......そちらに手が欲しいのよ。ごめんなさいね。出来るだけ早く戻るわ!」
そう伝えると足早に立ち去っていく。
その足音を聞きながら、浩司は優樹の身に付けているドレスを見る。
「あのときに似ているな......可愛いらしいドレスだ..........」
浩司は、ドレスを見つめていた。が、ふと視線が止まる。
ドレスの背のチャックが閉まっていないため、浩司が抱き上げた拍子にドレスが肩からずり落ちていたのだ。
浩司に抱きついているので胸は隠れているが、背中は丸見え。
浩司も鏡から視線をそらす。
「優樹?大丈夫?俺のこと、見れる?」
浩司がそっと優樹の身体を胸から離し、顔を覗く。
浩司のシャツにしがみついた左手以外とは少し距離がとれた。右腕は浩司の背に回されたまま。
「ん......」
と、力なく答える優樹。
そっと目を開けると、そのまま浩司の目を見つめる。
だが、すぐに涙で滲んでいく。
「優樹、大丈夫だからね。俺が居るよ。」
コクリと、頷く優樹。
頭を撫でてくれる浩司の手が露になった背中に沿わされたとき優樹の目が見開いて
「ちょっと!エロ大王!触んな!」
今までの、不安で壊れてしまいそうな優樹は何処へやら........
優樹に触れている浩司の手を払いのけて、軽く怒鳴る。
優樹も、怒鳴りながらもまた浩司の胸に抱きつくように身を寄せるから、浩司も理性との戦いが始まる。