たった一人の甘々王子さま
「オーイ、優?」
部屋を出ていった父親の後ろ姿を見つめたまま動かない優樹に俊樹が声をかける。
「優樹?聞こえてるの?」
エミも気になったのか優樹の傍にかけより目の前で手をかざして軽く手をふる。
しかし、優樹は動かない。
呆然とした感じだ。
優樹の隣で立っている相楽浩司も優樹を見つめる。
「優樹さん?聞こえてますか?」
優樹の方を向き、相楽浩司が声をかける。
その低音ボイスに驚き、優樹は肩をすくませて身を縮こませ――――ゆっくりと顔だけ低音ボイスを発した男を見上げる。
正面から見たその男は、優しい顔つきなのだが黒い瞳の奥には何やら謎があるようにも見受けられる。
一度見つめ合うと視線が逸らせない........
取り込まれるようなその視線に優樹は何も言えなくなった。
『あなたはこんな話、どう思っているのですか?』
聞きたい事があるのにも関わらず、優樹は何も言えない。ただ、見つめるだけだ。
「優樹?聞こえてるの?」
エミが優樹の腕をつかみ体を揺さぶる。
「―――え?あ、あぁ......うん。」
エミの声かけでやっと相楽浩司から視線をはずす優樹。
エミを見るととても心配そうな顔をしている。
その様子をじっと見つめていた俊樹が声をかける。
「相楽さんって言いましたよね?」
ソファーから立ち上がって相楽を見つめる俊樹の目はとりあえずは笑顔だ。目は笑っていないようだが。
「はい。あなたは俊樹さんですね?優樹さんの双子の弟の―――」
そんな冷たい目線の俊樹を気にすることなく相楽は返事をする。
「相楽さん、この話本当なですか?優のこと、マジですか?」
笑顔の俊樹から発せられる言葉は少しきつめだ。
優樹は俊樹の方を見るだけで何も言えない。
だが、そんな口調の俊樹に臆することなく相楽は
「もちろんです。優樹さには少しずつでも良いので理解していただきます。もちろん、自信もあります。俊樹さんの大事なお姉さんですしね。大切にしますよ。」
俊樹にとても優しい笑顔を見せてこたえる。そして言葉も発せず、動けない優樹の手を取り、
「さ、優樹さん。隣の部屋で少しお話を――――」
さりげなく優樹を抱き寄せて歩き出そうとする。
「相楽さん!」
俊樹がドアの前まで優樹をつれてきた相楽に声をかける。
相楽は何も言わずに振り向き俊樹を見る。
「優の事、本当に任せても良いんですか?信用しても良いんですか?」
さっきよりも大きい声で相楽に問いかける。弟としても、よく知らない男に双子の片割れである優樹の身を預けるのに不安がよぎる。
「俊樹さん。私の信用度が低いのもわかります。ですが、あなたがたの父親でもある社長から紹介されたのですよ?そこら辺でのさばっている男共よりは信用していただけると有り難いですね。」
『では、失礼します。優樹さん、行きますよ―――』
相楽は俊樹にそう言葉を告げて優樹を連れて社長室を出ていった。