たった一人の甘々王子さま


「優樹......いつまでもこの格好のままでは、俺が困るのわかってるよね?襲ってもいいの?このドレス着てパーティーに行くんでしょ?」


胸のなかで小さく丸くなる優樹に声を掛ける。が、動こうとしない。


「優樹........今の格好、本当にわかってるの?ドレスのチャックが開いたままだから、こうして俺の手が優樹に触れ放題............」


無防備な背中に手のひらを這わせる。
ゆっくりと背中を触り始めたら、ウエストラインへ移動させる。
優樹の身体がビクンと震える。そして、その手が腰のところまで来ると......


「エロ大王!調子乗りすぎ........動けない人間にすることないじゃん。」


俯いたままの優樹から声が聞こえる。
浩司の手も一瞬止まる。
しかし、


「優樹、それは無理だよ。こんなにも美味しそうな獲物が傍にいたら、男は誰でも食べたくなるもので......」


止まった手は再び動き出す。
浩司の手が下に降りれば、その手に引っ掛かったドレスも移動する。
胸元まで下がったドレスが優樹の膨らんだ胸を通り過ぎたところで、


「......浩司の意地悪..........もう、キライ......」


浩司の背中に回した優樹の右手がそのまま背中をギュゥッと、つねる。


「イッ....タイよ、優樹。」


「痛くない。エロ大王には充分です。」


『仕方ないね。この辺でやめておくよ。
さぁ、ちゃんとドレス着よっか?』


なんて、優しくても浩司の手つきは怪しい。
『やめて。』と、言いたくても、腰が抜けて自分でできない優樹は仕方なしに浩司の手助けを受け入れる。


座ったままだが、ドレスを着直し、チャックを上げて整える。


「優樹、立てる?」


「ん....わかんない」


浩司が立て膝の姿勢で優樹の両手を取り、立ち上がる補助をする。
なんとか立ち上がるものの、まだ足がフラつく。


「ほら、俺に凭れて?」


「ん。」


歩きだそうとする優樹の背中と膝裏に腕を沿わせて『よっ』と、掛け声と共に浩司がお姫様抱っこをする。


「ほら、捕まって。歩くの、無理でしょ?
向こうのソファーまで行くよ?」


優樹が更衣室のドアノブを開ける。
浩司は自身の肩で扉を開け広げ、外に出る。


スタッフが何人間慌ただしく動いているなか、颯爽と歩く浩司に抱かれている優樹は少し恥ずかしくて俯いたまま。


「優樹、『怖い気持ち』なくなった?」


浩司が歩きながら問いかける。


「え?」


すっとんきょうな声をだし、優樹は顔を上げて浩司の顔を見る。
優樹と目が合うと浩司は微笑む。
そして、


「暗い部屋、まだ怖い?まだ苦しい?辛いこと、何か思い出した?」


立ち止まって、見つめながら質問をして行く。
優樹は首を振るだけで、


「わかんない........さっきね、部屋が暗くなったら小さな女の子がいたの。居るはずないのに........可愛そうだから助けてあげたかったんだよ。でも、出来なかった..........」


「優樹は、自分も怖かったのに助けたかったの?」


「うん。自分よりも小さい子だもん。助けたかった。」


「そっか、頑張ったね。」


浩司はまた歩き出した。


「優樹、下ろすよ?」


ソファーまで運ばれた優樹はそっと腰を下ろす。
浩司は首に巻き付けた優樹の腕をほどいてそのまま強く握る。
腰掛けた優樹の前にしゃがみ込んで、


「優樹。もし、また暗闇に閉じ込められる時があっても必ず助けに行くからね。出来るだけ俺が助けに行く。心配しないで、ね?」


「ほんと?それは頼もしいね。......でもさ、浩司っていつも仕事で一緒にいないから無理じゃん。」


「お?ちょっと強がりが出てきたね?もう、大丈夫かな?紛らわす為にした優樹へのボディタッチも俺的には堪能出来たしね。どう?夜のパーティーに行けそう?」


「え?そのためにあんなにエロい事としたの?」


「ん?何かな?次はヘアメイクでしょ?服装だけではなくて、此処ももっと可愛くなるの楽しみにしてるよ。」


優樹の頬を突ついてニッコリ微笑む浩司。


「チッ......話、逸らしやがったな......」


舌打ちして、昔の口調に戻った優樹。


「今度、助けを呼ぶときは俊樹くんではなくて、ちゃんと俺を呼んでよ。お願いだから。ね?」


チュッと頬にキスを落として『俺も着替えてくるから待っててね。』と、優樹の手を離すと駆け寄ったスタッフに『よろしくお願いします。ウンと可愛くしてください』そう伝えて、去っていった。

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