たった一人の甘々王子さま


「本日は有り難うございました。では、これで。」


と、浩司が締め括りその場を離れる。



人混みを分け進み、テラスへ向かう。その手前で見慣れた顔を見つけた優樹は笑顔になる。
相手も優樹に気がついたようで、顔の横で手を振る。


「ユーキ、お疲れ!」


エリーが優樹に抱きつく。
浩司の事など気にもとめずに。


「って、今夜はとってもキュートね!イヤン、食べちゃいたい!!ね、パパ?」


エリーの父親エドワードはとても優しい包み込んでくれる笑顔で頷いている。


「エリー。本当に食べてしまっては、私がコージからとてつもない罰を与えられそうだよ?」


「あら、それは大変!パパ、頑張って罰を受けてね。」


と、優樹の頬にキスをするエリー。
そのままエリーの唇が耳元に移動すると


「ユーキ、ダーリンがとてつもなく怖い顔で私を見つめてるわ。本当に溺愛されてるのね、羨ましいわ。」


そう言ってウインクをして離れた。


エリーのコミュニケーションは優樹にはドキドキもの........
ハグやキスは日常茶飯事。


「ユーキ、いい加減なれてよね?此方の挨拶、知らないわけでもあるまいし。」


「うぅ....エリー、色っぽいからマジでドキドキするもん。自分、男だったら惚れるよ。」


「あら?嬉しいこと言ってくれるわね!パパ、やっぱり私ユーキが欲しくなっちゃった。」


父親のエドに腕を絡ませおねだりする。可愛らしく上目使いで。
エドも肩を竦めて困り顔。


「エリー、ユーキの父上にもコージを怒らせると厄介だと聞いているからね......いくら可愛い娘のお願いでもそれだけは難しいよ?」


『諦めてくれないかい?』なんて言いながら私も挨拶周りに行ってくるよ。と、その場を後にした。


「コージはパパと行かないの?」


エリーが上から目線で浩司に問いかける。
売られた喧嘩を買うつもりがない浩司は、


「もちろん、行きますよ。エリーがキチンと優樹の護衛をしてくださるならね?」


優樹の肩を抱き寄せて、浩司はエリーを見つめる。いや、軽く睨んでいるのかも。
だが、エリーも怯むことなく見つめ返す。


エリーはお嬢様なのだが、ボディーガードに幼い頃から武術を習って、護身術を身に付けている強者なのだ。
『お嬢様なのに、守ってくれる人がいるのに何故そんなに鍛えてるの?』
と、優樹が聞いたことがある。


その時の答えも
『今の時代、いつ狙われるか分からないのよ?守られるだけではなく、自分も戦える位にならないとね!』
なんて、返ってきた。
『お嬢様に生まれた宿命かしら?』
とも言っていた。


優樹はそんなこと考えたことがなく、日本はまだ平和なんだと改めて感じた。
自分は、見た目だけ男らしく振る舞っていただけでエリーみたいな特技なんて何もない。
ただのバスケが好きな教師希望の大学生だ。そんな自分が、少し恥ずかしかった。


「浩司、大丈夫だよ。ちゃんと此処に居るから。挨拶してきて。」


二人の火花が途切れそうもなく、声をかけた。


「ほら、ユーキも言ってるし、ダーリンはパパと挨拶してきて。」


エリーも早く行けと言わんばかりにあしらう。


浩司は優樹の頬に手を添えて


「じゃあ、行ってくるよ?必ずエリーの傍に居てよ?このホールからは絶対に出ないこと。約束できる?」


優しく説き伏せる。
優樹もニッコリ笑ってゆっくり頷く。


「うん、約束する。エリーと一緒に料理食べてるから。味付けの勉強してくるよ。そこのテーブルに居るからね。」


そう言って、1番近いテーブルを指差して


「今度、一緒に作れるようにさ。」


と、可愛く答えた。すると、


「ユーキ、甘い声出すとダーリンが獣になるよ?」


なんて、エリーが脅す。


「ほら、向こうでパパが呼んでるわよ?コージは急いだら?」


小さくため息をついて、浩司は優樹の頬から手を離す。


「約束、守るんだよ?」


そう言い残し、エドの元へ行った。

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