たった一人の甘々王子さま
「ユーキもスゴいヤキモチ妬きのダーリンに好かれたのね。普段からあんなに甘えてるの?」
料理を選びながらお皿に取り分けているとエリーから声がかかる。
「え?んー、ヤキモチ妬きなのはお互いかな?今日もちょっとあったし......」
優樹の頬が少し赤らむ。
エリーもふーんそう。と、ニヤリと笑う。
「ユーキ、もうすぐ私のダーリン来るんだけど会ってくれる?」
「え?エリーの彼氏?うん、会いたい!写真でしか見たことないもんね。」
「彼ね、最近まで日本で仕事してたの。だから日本語話せるわよ。」
『へー、それは楽しみだね。』
なんて、軽くお喋りしながら料理も楽しむ。浩司の事など気にもせずエリーと他愛もない話で盛り上がる。
「エリー」
呼び掛けられた声に二人が振り向くと、男性が二人こちらに向かって歩いてきた。
一人はエリーの彼だとわかるのだが........
「トム!」
「お待たせ。ごめんな、こいつがちょっとね......」
エリーの彼氏・トムは一歩後ろの男性に視線を向ける。
その男性も気怠けに返事をする。
「お前の代わりに仕事してきたんだからさ、少し位の遅れで文句言うなよ?」
トムの後ろに立つ男性が俯きながら答えるもふと顔を上げると優樹と視線が交わる。
「あ、あんたがトムの彼女の友達?」
その男性は優樹の事を見定めるかのように視線を上下させていく。
優樹にはその視線が不快感を煽っていく。
『ふーん』って声が聞こえたので、優樹はスッと視線を逸らした。
浩司、早く戻ってきて!―――――――
そう思ったのは言うまでもない。
「君が、ユーキだね。はじめまして、トムです。エリーからいつも聞いてるよ。とてもキュートな親友が出来たってね。」
エリーの隣に立ったトムは優樹に右手を差し出した。
その手を取ろうと優樹も右手を出し握手した。優しく包む大きな手はやっぱり浩司の手とは違うなって感じる。
「ユーキ、トムに惚れちゃダメよ?私のだからね!」
トムと握手する手にエリーも手を重ね、優樹にウインクしてそう言った。
「もちろん!大好きな親友エリーの彼だもん。自分にも大切な親友だよ。トム、よろしく!」
握手した手を解き、エリーを見ると
「トム、来てくれてありがとう。」
って、二人がキスしているところだった。
さすがに、親友のキスを間近で見る度胸はないので慌てて俯く。
それを見ていたトムの仕事仲間が
「あんたって、恋人いたよな?」
なんて、突然声をかけてくる。
優樹は驚いた。
何故なら、その彼は日本語で問いかけたのだから。
「え?日本語、話せるんですか?」
つい、優樹も日本語がでる。
その彼を見ると日本人っぽい。けれど、何処か違う。
「あぁ、俺、日本とのハーフなんだよね。名前はショウ。母親が日本人。だから、日本語も話せてトムと一緒に日本の支店で働いてた。」
優樹が聞きもしないのに自己紹介をしてくれた。
その、ショウという男。
浩司と同じ背格好ではあるのだが浩司よりも細身。目鼻立ちもスッキリ綺麗でモデルのよう。
ショウをじっと見つめて浩司と比べている優樹。知らぬものが見たら一目惚れでもしたのか?なんて間違われるほど優樹の視線はショウに釘付け。
そんな優樹に近づいたショウは耳元で一言。
「因みに、日本に居たとき、あんたと恋人らしき男も見たことあるよ。」
驚いた優樹は一歩下がって、声をかけられた耳を手で塞ぎショウを見る。
ショウも優樹の方へと顔を向けたのでとても近い位置で見つめ合う形になる。
軽く前屈みになるショウと少し見上げる優樹。今にも口づけを交わしそうな雰囲気だ。
傍で見ているトムとエリーが、二人の更に後ろで鬼の形相をしている一人の男を見つけてニヤリと笑い出す。