たった一人の甘々王子さま
11 本当に好きなのは
エリーの父親主催のパーティーが終わって数週間が過ぎた。
また、いつもの日常がやってくる。
優樹は大学へ、浩司は仕事へと向かう。
浩司の仕事も、エリーの父親の協力も得て新しい事業への軌道が確りしてきたところ。
先日も、社長である優樹の父親によい報告ができた。
『もしかしたら、1年で日本に帰れるかもしれない。』
なんて、浩司も思えるくらい順調だ。
残業のない日も出来、二人一緒に夕飯を取ることも増えてきた。
ある日の夕食で、優樹の学生生活も楽しいと話が盛り上がっていた。
担任の先生の面白エピソードやクラスメイトの馬鹿話。試験の話も色々。
本当に他愛もない話で笑いあった。
「ねぇ、優樹。今年の夏休みはどうするの?俺も時間が取れそうだし......何処か行きたい?それとも、日本に帰りたい?」
笑い話が途切れたとき、浩司からの提案に優樹は動きが止まった。
ゆっくり隣に座る浩司を見つめる。
いつものように二人並んで食事をしているから、浩司も優樹の事をそっと抱き寄せる。
「優樹、どうする?」
浩司の胸に顔を埋めている優樹の頭を撫でながら優しく問う。
「もう、帰れるの?」
きゅっと浩司に引っ付いて優樹も問う。
「いや、まだ帰るのは難しいけど数日ならね。報告も兼ねて一時帰国だよ。きちんとした契約を結ぶのはこれからなんだ。相手側も居ることだし。そう簡単にはね........」
撫でていた手を頬に移動させ、優樹の顔を上に向かせる。
微笑む優樹が堪らなく愛おしい。
日に日に女の表情をみせる優樹に浩司の想いも強くなる。
そっと触れるだけの口づけをして優樹を見つめた。
優樹の頬が赤くなるのを見て浩司も微笑む。
「......ご飯中にキスすんな。エロ大王。」
優樹は恥ずかしくて、また浩司の胸におでこをくっつけて強がりを。
そんな優樹に
「で、優樹はどうしたいの?此処に居る?それとも一緒に日本へ行く?それとも........」
『新婚旅行に行く?』
優樹の耳元でいつもの甘く低い声で囁いた。
ビクッと肩が震えた優樹から出た言葉は
「まだ結婚してないから行かないッ!」
だった。
相変わらず、浩司の優樹に対する言動はとことん甘い。
甘く、優しく包み込むから優樹もまた素直になってきた。
恥ずかしさからきつい言葉も発するのだが..........
優樹は、浩司の胸に抱き締められるのがとても心地よくて大好きなのだ。
文句を言いながらでも、自分から離れることはしない。
現に、今もそうだ。
『エロ大王』とか言いながら、引っ付いたままだ。
「ねぇ優樹、チケットの事もあるから日本に行くか行かないを聞かせてもらえないと困るんだけどな?」
浩司は優樹の髪を梳きながらもう一度確認する。
優樹の髪は浩司と付き合うようになって少しずつ長くなった。
今は肩につくくらいの長さ。後ろで1つ縛りができるほど。
優樹本人は、
『伸びてくると鬱陶しい。切ってくる』と、すぐ美容院へ。
浩司としては、
『優樹の髪触りたいからそのまま伸ばして』と、引き止める。
いつだったか浩司の忙しいのをいいことに、髪をさっぱりと短くしたことがある優樹。
その時、あまーいおねだりをされて寝かせてもらえない日を過ごした。
『俺、髪が長い優樹が見たいんだけど?』
『......ンッ....これから、伸ばすから........』
『ほんと?今度短くしたら、今よりも優樹が大変だからね?』
『........ッア......わかった......から....』
息も出来ないほどの想いをぶつけられて次の日休みだったから良かったものの、半日は動けなかった。
「で、いつ戻るの?来月入ってから?」
問いかけたまま無言で優樹の髪を梳き、毛先で遊んでいる浩司に声を掛けた。
「そうだね。向こうのお盆休み辺りにしようか?みんなに会いたいでしょ?」
「多分、俊は忙しいよ?エミには会いたいな~」
『楽しみだね~』なんて話ながら日取りを決めていく。
帰国する日が決まったら、その日はあっという間に来るもので......
出発日は、もう明日に迫っていた。